[コラム]ナードマグネット・須田とハンバーグオムレツ・カリスマのEIGA・BU第26回

[コラム]ナードマグネット・須田とハンバーグオムレツ・カリスマのEIGA・BU第26回(2015/09)


カ:言い出せなくて夏、2015。どうも、海に行ったら日焼けが過ぎて何処からどう見てもチャラくなったと噂のカリスマです!

須:海は苦手なので琵琶湖でバーベキューしたいです!ナードマグネット須田です!

カ:琵琶湖でバーベキューとかめちゃおもろそうやん!!つーか、ハンバーグもナードも9月に東京SUCKで海に行くけどね(笑)

須:そうですね!2年ぶりの東京SUCK!吉祥寺プラネットKでオールナイトイベントやってから翌日みんなで伊豆の温泉に行くというムチャクチャなイベントです(笑)

カ:打ち上げの分量が本編より多いってなかなか無いからね(笑)しかも今年は27組出ます!ちなみにタイムテーブル組んでるんだけど、ナードは超出番後ろだよ。

須:えぇっ!ともにゃんのお肌のことも考えてくださいよ!(笑) 若いお客さん来れなくなっちゃいそうだなー…。まあそれはまた別の日に話すとして、本題に行きましょう(笑) ※結局ナードマグネットはトリ前(早朝)になりました。ひどい!

カ:はいよ(笑)この夏は大作目白押しよね。『ジュラシック・ワールド』



『M:I/ローグネイション』



『進撃の巨人』



などなど、でも今回取り上げるのは、こちら塚本晋也監督の最新作『野火』です。



須:ハイきました!カリスマさんから「次回コラムは絶対これで行くから早く見ろオラ!」と恫喝されたのでお盆休み初日に見てきましたよ!休みに入って浮かれてた気分が一気にどんよりしましたよ!どうしてくれるんですか!

カ:まさか、休み初日に行くなんて、、ね。そんな須田くんはこの作品の濃密な死臭を堪能して頂けたと思います。なんせ、この夏のEIGA・BUでなんとしても取り上げたかったのよ。この作品だけは少しでも多くの人に観ていただきたくて。

須:いやほんとに、そんだけ推す意味もわかりましたわ…凄かったです。戦争映画かくあるべしというか。まさに地獄を見せられた気分です。90分間の地獄。

カ:雄大な生に満ち満ちた原生林の中で人だけが無意味にバタバタと死んでいく。勝利の喜びは無く。家族の温もりは無く。ただただひたすらに続く死。底なしの恐怖。戦争映画のあるべき形はこれだと思った。だって『野火』観て「戦争最高!戦争行きてー!」なんて言う奴いないからね。

須:いないですね(笑) 久しぶりに良い意味でシンドい戦争映画見たかもです。塚本監督ご自身が主人公を演じてるんですが、もうとにかく次から次へと嫌ーな目に遭いまくるんすよね。「地獄めぐり」って表現がぴったり。

カ:正にそう。でも、現実的に地獄めぐりって内容に対して資金が集まらなかったみたいでね。それで、監督は一人で現地に行って三脚でカメラたてて一人だけの映画をまるまる仕上げたり、アニメ化の構想を練ったり、兎に角試行錯誤重ねるに重ねた言ってた。普通はそこで頓挫しそうなもんなのに塚本監督の執念で完成にこじつけた格好やね。パンフと関連の本を読んだけど、監督がこの作品に込めた使命感を感じた。「何としてでも完成させるぞ!」っていう気迫に満ちた使命感を。

須:主人公ひとりだけのシーンが結構多いのはそういう事情もあったんすね。パンフとかまだ読んでないのでその辺の詳しいこと全然知らないんですが。でも最終的にリリー・フランキーが出てたり、中村達也が出てたり、俳優陣はなかなか濃ゆいメンツが集まりましたね。リリーさんのあのじとーっとしたイヤな感じ、流石でした。

カ:この作品のリリーさんがやってるおっさんってほんま普通にあちこちにいるおっさんやん。言われないと下手したらリリーさんがやってるって気付かないんちゃうかなってぐらいの。でも、あの状況だと普通のおっさんが嫌悪感が漂うおっさんに変容してしまうんよ。それこそ戦争の特異性の一つかと思う。正常を異常に、正気を狂気に、命をモノに、万象の理を根底から覆してしまう。

須:狂気というか極限状況というかを表すのに、「限界まで飢えたら人はどう行動するか」ってのが強調して描かれますよね。「踏み越えちゃダメな一線」の象徴として「人肉食」がキーになってる。ちなみに僕は何を血迷ったか、『野火』と『進撃の巨人』をハシゴして見てしまったので、その日は食欲が完全に無くなりました!

カ:また何というハシゴを、、、。当時、飢餓に伴う人肉食は軍が禁忌にして厳しく取り締まるぐらい深刻な問題になってたみたいでね。同胞だけで無く敵国や現地民もその標的であったという凄惨さ極まる戦場だったことを物語ってる。こういうことって学校では習わないし、シネコンでやってる映画でもここいら辺の描写は殆どされない。でもね、ほんの70年前にこんな地獄が存在したって歴史を俺らはもっと知るべきなのよな。

須:確か『きけ、わだつみの声』っていう日本の戦争映画だったと思うんですけど、



それにも途中で誰かに食われたっぽい死体が出てきて、小学生のときに見てどえらい衝撃受けました。織田裕二が出てたやつだと思うんですけど、見たことありますか?

カ:観たよ、と、いっても断片的にしか覚えてないけど。仲村トオルと織田裕二と的場浩司が出てた事と人肉食の描写があったのは覚えてる。小、中学生ってそういうシーンがあったら一種のホラーとして話題にするとこあるやん。

須:そうですねー。『プライベート・ライアン』の冒頭とか、



友達と「やばいよなアレ!」って騒いでましたね。『わだつみ』は海外に住んでるときに親がビデオで見てたのを横で見てたので、共有できる友達いませんでしたけど…(笑)

カ:流石に『わだつみ』は海外ではやってないもんな(笑)ほんの70年前のことなのに既に捉え方が架空の出来事のようになってしまうぐらい非現実的なんよね、戦争って。これがもっと時間経つと更に戦争が遠い出来事になって、そのうち「戦争やろうぜ」なんてことになって行くんじゃないかなって危機感を覚える。

須:さすがに「戦争が起こっても構わない」って考えてる人は少ないと信じたいんですが、「自分より下の世代の人らに押し付けときゃいいや」っていう無責任な人はいる気がしますね。毎日不穏な話題ばっかりのこのタイミングでこういう作品が公開されたのはほんと大事なことだと思います。

カ:握手会の時に塚本監督に失礼とは思いながら「何故ここまでしてこの映画を撮ったんですか?」ってうかがったんよね。そしたら監督は「それが僕にもわからないんですよ。」って仰られたのね。でも、その言葉とは裏腹にとんでもない執念が作品からビシビシ伝わってきてて。俺は監督のその言葉を聞いた時、もう震えたよ!これぞ、表現者としての反戦のあるべき形や!!

須:映画の中では明確な「反戦メッセージ」みたいなのは全く出てこないんですけどね。テーマめいた台詞とかは無くって、ただひたすら地獄みたいな状況を描くことで、観客にとってそれが「体験」になる。だから異常なぐらいの音響処理とか、途中のとんでもないゴア描写とかはそういう「体験」をさせるために絶対必要なんでしょうね。

カ:そやろな。死屍累々の様を描くためにゴア描写を追加撮影したらしいからね。それも相まってほんと直視出来ないような凄惨場面が続くから、カップルやファミリーで観れるような作品では無いんやけど、俺はこの夏、一人でも多く人に観て欲しい。どれぐらい強い反戦の意思の上にこれが作られているかを感じて欲しい。

須:そうですね。できれば若い世代に見てもらって、先に挙げた僕にとっての『わだつみ』とか『プライベート・ライアン』のような、ある種のトラウマになればいいと思います。戦争映画の役割ってそういうことだと思うので。

カ:その通り!根本の意識が変わらないと日本は変わらない!!流行りやられて「気分はもう戦争」なんてことになる前に「野火」を観てひっくり返って何が一番大切か考えよう!あと、作品で主張せずにデモばっかり出てるバンドマンに言いたいが、あんたらそれじゃ誰もついてこないよ!

須:えっ、そんなバンドマンいます?(笑) というかちょっとその意見にはあんまり同意できないです…。ミュージシャンの作品が全てポリティカルである必要はないと思います。他愛もないポップソングを作ることがその人なりの戦い方だったりもするわけですし、仮に世の中がおかしな方向に行ってしまったときにもそんな他愛もないポップソングに救われる人たちは必ずいますから。

カ:そう、須田くん!それですよ、それ!今、俺は全否定な物言いをしてんけど、そうすると普通「ちゃいますよ、それ」って須田くんみたいに言っていい筈なんよ。でも、なんかハンドマンって反原発、反安保な人ばっかりで「俺、安保法案賛成です」あんまり言ってる人を見ないのね。で、東京のバンドマンからFacebook経由で来るの「デモに出よう!」って。それって、なんか違和感があるのな。大袈裟に言えば反安保のデモに参加するのがバンドマンとして正しいですよって風潮。デモも表現の一つなんかもしれないけど、先ず俺らなら音楽やろやって思う。でもさ、音楽でもあまりに露骨で正面からやるとそれはそれで意見がぶつかって喧嘩になるからさ。それを避けつつ、上手く風刺で挟んだり、「野火」の様に言葉では語らず画で観せたり、情勢に関わらず他愛もないポップソングをやり続けたり、知恵を絞ってドンパチせんでも救いになるものは創造出来るんよ。って、これはこれでめちゃ上からの意見になってるかも(笑)

須:時流に簡単に乗っちゃうんじゃなく、ちゃんと自分の頭で考えて、自分の言葉で発信していきたいですよね。人の意見の揚げ足とりばっかりしてる人にはなりたくないものです。僕も勉強不足なとこあるから、この機会にちゃんと自分なりに色々調べて考えんとなあと思いますわ…。

カ:今からの日本を作るのは俺たちやこれを読んでくれている皆さんなので、この夏に「野火」を観て、70年前にあったこの国で何があったかを知ってもらって、未来に何が出来るのかを一緒に考えて行けたらな、と思う。EIGA・BU史上一番真面目な話をしてるけど、ほんまのほんまに何よりこの国が平和なのが一番やから。

須:バカな映画をゲラゲラ笑いながら見られる幸せも、平和な世の中があってこそですからねー。難しいことは後から学んでいけばいいので、とりあえずコレ見て「うわ、こんな状況になったら最悪だわ…」って感じるとこからですね。そんなわけで、だいぶ更新に時間がかかってしまいましたので、そろそろ締めましょう!

カ:ぐおぉ!今回はほんま時間かかったなぁ、、。よし!締めよう!って訳で、塚本監督入魂の『野火』は是非映画館でご覧下さい!

須:小規模な公開館数ですけど、たぶん全国のちっちゃい劇場を転々としていくと思うので、チャンスがあれば絶対に映画館で見た方がいいです!さっきも言いましたが、見るっつーか、体験する、って感じです。ほんと。

カ:ほんまに忘れられない作品になるはずです!俺と塚本監督の2ショットを観て頂きながらお別れです。また次回お会いしましょう!

画像(カリスマと塚本監督)


プロフィール 如何の通り

カリスマ: 本名不肖、牙の勇者の異名を持つキョウリュウレッド。
地球と大阪市北区の平和を守る傍らハンバーグオムレツというジャンクフードパンクバンドのボーカルとしても活動している。
EIGA・BUの「観る」担当。
HP:http://omelette.sekaibi.com

須田亮太: 顔出しNGというわけではございません。
ナードマグネットというバンドのギター&ボーカル。パワーポップという不遇のジャンルを今一度普及させるべく、大阪を中心に活動中。アイドルも好き。
EIGA・BUの「見る」担当。
HP:http://nerd-magnet.com/

ナードマグネットのインタビューはこちら