[コラム]ナードマグネット・須田とハンバーグオムレツ・カリスマのEIGA・BU第31回

[コラム]ナードマグネット・須田とハンバーグオムレツ・カリスマのEIGA・BU第31回(2016/03)


カ:どうも皆さんいかがお過ごしでしょうか?今月もEIGA・BUのお時間がやってまいりました。おそ松さんなら「から松」推し、ハンバーグオムレツのカリスマです。

須:こんにちは!おそ松さんブームにも乗りそこねておりますナードマグネット須田です!カリスマさん流石トレンドに敏感ですねえ。

カ:ナウい(死語)だろ?今年はアニメ観まくってるわ。映画以上にアニメばっかり観てる気がする。

須:アニメ見ないなあ…基本的に続きモノが苦手なのかもしれません。。僕は逆に今年は急ピッチで映画見てますわー!

カ:続きモノは時間をとられるからね。ちなみに『ブレイキング・バッド』は観終わったん?

須:まだシーズン4の終わりくらいです(笑) huluで配信終わったから泣きながらTSUTAYAに通う日々です。

カ:hulu終わっててんやね!!あれはまだ海外ドラマの中では短い 方やけど、『スーパーナチュラル』とかシーズン10とかまで行ってるからハマったが最後全ての時間が溶かされる羽目に(笑)さてさて、本題に参りましょう。今回取り上げる作品はこちら。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』です。

俺、この作品、今年の年間ベスト10に確実に入ると思います。

須:はい!僕もたぶんベスト入りしますねー!痺れました!サブプライム問題でアメリカの経済が崩壊したときに、それによって大儲けできた人たちがいた、という実話をもとにした作品です。

カ:俺は充分観やすく考えてあると思って感心してんけど、難しいと思う人が多いみたいやね。特に日本人はこの映画の中核を成すサブプライムローン問題について馴染みが無い人が多いのもあるんやろうな。TwitterのTLでも「難しくてよくわからなかった」という書き込みをチラホラ、映画館でも老若男女問わず難しい言ってる人がチラホラ。先ず何より邦題が紛らわしいよね(笑)

須:そうなんですよ。全然「華麗なる大逆転」する話じゃないし、全体的に軽快なコンゲームみたいな感じで宣伝してますけど、スカッと楽しい映画ではないです。怒りと皮肉に満ちた、苦い後味を残す作品です。確かに予備知識なしだと結構しんどい内容だと思うんですが、サブプライム問題についての超わかりやすい解説を見つけたので、まずこちらの記事を紹介します。 https://filmaga.filmarks.com/articles/646

カ:超わかりやすい!単純にサブプライムローン問題やリーマンショックを先読みして空売り出来ないものを空売り出来るようにして空売りしたって話。でも「空売り」って言葉自体トコトン一般人には馴染みが無いし、俺どんだけ「空売り」連発してるんだって話にもなってくるよね(笑)ちなみに「空売り」ってのは、ざっくり説明するとその売り物の価値が下がれば下がるほどその下落分が利益になるっていう売り方です。

須:原題は"The Big Short"で、原作小説のタイトルは『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』っていうんですよね。堅実で安全だと思われていた住宅ローン債券が実は大半がサブプライムと呼ばれる返済能力の無い人たちへの貸付で成り立っていて、「これヤバくね?そのうち全部デフォルト(債務不履行)が起こってメチャクチャになるんじゃね?」と気付いた人が、住宅ローンが破綻した時にお金がもらえる保険のような商品を作らせる、というお話です。

カ:そう、全体の話を要約すると非常にシンプルな内容なんよね。須田くんは映画観終わった時、「訳わからん!!」ってなった?

須:や、みんなが結構そんな感想だったので事前に前述のコラムとか色々漁って予習してったおかげで、わりとすんなり楽しめました!それでも難しい箇所はたくさんあるんですけど、この映画のすごいところは、「なんかよくわからんけど確実にヤバいことになってることは超わかるぞ…」って観客に思わせるような演出ができてるとこだと思うんです。すごく上手いと思いました。

カ:そうやねん。俺は一回目全く予備知識無しで行ってんけど、正に「なんかよくわからんがヤバい!!」って状態になって、ある程度知識入れてから二回目行ったら、劇中で起こってる事の重大さに震えた。特に途中でストリッパーが知らんうちにトンデモナイ借金を背負ってる所とかハンパ無いヤバさ!

須:「サブプライム」という層の実態が明らかになるくだりはほんと「ひどすぎて笑うしかない」って感じでしたね。全体的に強烈なブラックジョークが満載な映画なんですが、これを撮ったアダム・マッケイ監督って、もともとウィル・フェレルっていうレッチリのチャド・スミスそっくりのコメディアンと組んでくっっだらないコメディばっかり作ってた人なんですよ。僕ほんと大好きで学生時代からずっと追っかけてきてたので、「よくぞここまで…」って気持ちで見てましたね。

カ:あ!なるほど、俺もいまわかりました!この監督は『俺たちニュースキャスター』の監督やね!


須:そうです!あのアホさから今作のこのテイスト想像できないでしょ?(笑)日本で例えると『行け!稲中卓球部』を描いてた古谷実先生が『ヒミズ』でシリアス路線になったときの衝撃に近いと言ったらわかりやすいでしょうか(笑) しかも『俺たちニュースキャスター』で頭の弱いお天気お兄さんを演じていたスティーブ・カレルが今回あんな素晴らしい演技を見せていて、ほんと色々と感慨深いですよ!

カ:日本でもバブル期の栄枯盛衰を映画にしたらええんちゃうのって思ったけど、ドロドロになるやろうな(笑)あと、この映画、がっつりPLAN-Bがかんでる作品やったね。ブラピって作品のチョイスが上手い。デニーロと違って必要な役を必要なだけ演じるのが素晴らしい。今作なんてオーガニックマニアのちょっと太った初老のおっさんやもんな。

須:でもちゃっかり一番マトモな役ですよね(笑)「お前らが勝つってことは経済が崩壊して大勢の人が職や家を失うんだぞ!わかってんのか!」って。自らすすんで悪役になって派手に死ぬタランティーノみたいな人もいますが(笑)

カ:タランティーノ(笑)でもほんと、ブラピのセリフに象徴されるように、主要人物は逆転することを予測しながらその時を迎えても歓喜に沸かないという。ほんまに全部ひっくりかえってしまった虚無感というか、喪失感というか。そこがこの映画の特異な部分、かつ面白さだと思う。ちなみに、俺、前回の『オデッセイ』に続き今作も原作読んでるんですが、映画の比にならんくらいに専門用語バンバンでとんでもない難物(笑)

須:僕も原作読もうかと思ってたんですが、やっぱ大変そうですね(笑) でもほんと、エンターテイメントでありながらこうやって色々調べたり考えさせたりする作品は大切ですよねえ。みんな「わからないもの」に対してはマジで興味すら持たないですもん最近。わかりやすさだけを求めすぎるのは危険なことですなー。あと、前回の『オデッセイ』の話の続きで今回も「歌詞の日本語訳出ない問題」がありまして、エンドロールでかかるLed ZeppelinのWhen The Levee Breaksという曲。「雨が降り続いたら、堤防は壊れてしまうだろう。堤防が決壊したら、俺には留まるところがない」って歌ってて、カリスマさんの言うような登場人物たちの喪失感や虚無感にリンクしてとても深く苦い余韻を残すんですよね。

カ:情報が溢れすぎて麻痺しがちやけど、大事なことは自分で探しに行かないと決して見つからない。自分や家族や仲間は自分で守らないといけない。この映画の出来事しかり、銀行も国も何一つ守ってはくれないからね。

須:「考えること」を放棄したら終わりですからね。事前に同監督の『アザー・ガイズ』って作品を予習も兼ねて見まして、

作品自体はいつものバカなコメディなんですけど、結末とエンドロールがちゃんと今回の『マネー・ショート』に繋がってくるんですよ。監督の怒りがビシビシ伝わってくるので、気になった方は合わせて見てほしいです。

カ:この監督は怒りをダイレクトに作品に乗せて発信出来るってとこが素晴らしい。日本も銀行がこぞってカードローンを勧めてるけど、あれも結局、貸金業法が適用されないってとこを歌ってて、一昔前のヤミ金みたいな感じになってるみたい。お陰で20.30代の自己破産が急増してる悲惨な状況。ほんま甘い言葉に乗せられてフラフラ行ったらあかん!俺らが俺らで勉強してこの時代を生き残らなあかんのや!

須:ほんとですよ!アメリカの経済状況なんて関係ないし興味ないーとか言ってる場合じゃない。全然他人事じゃないんすよ!ちょうど僕はリーマンショックの直前に就活して内定もらってたから、取り消されないかずっとビクビクしてたんですよ!あいつらのせいで!(笑)

カ:リアルタイム(笑)そう、ほんとにリーマンショックは世界経済に大打撃を与えて、実際あれで日本も沢山会社が倒産したんですよ!だからね、ほんま、俺は言いたいのよ!「この映画?難しくて?わかりませんでした?」とか言ってるそこのあなた!生き残るために勉強しよう!

須:難しい内容ではあるけど、つまんない映画では決して無いですよ!めっちゃくちゃ面白いです。僕は震えました!ぜひしっかり予習して見に行ってほしいです。

カ:受動的に観るだけじゃなくて、能動的に作品を観ること楽しみ方の一つ!ほんのちょっと予習で作品の魅力が何倍にも膨らむ感覚を是非とも劇場で体験してください!

須:クリスチャン・ベールやスティーブ・カレルの素晴らしい演技も見ものですよ!!というわけで今月はこの辺で。また次回!!!




プロフィール 如何の通り

カリスマ: 本名不肖、牙の勇者の異名を持つキョウリュウレッド。
地球と大阪市北区の平和を守る傍らハンバーグオムレツというジャンクフードパンクバンドのボーカルとしても活動している。
EIGA・BUの「観る」担当。
HP:http://omelette.sekaibi.com

須田亮太: 顔出しNGというわけではございません。
ナードマグネットというバンドのギター&ボーカル。パワーポップという不遇のジャンルを今一度普及させるべく、大阪を中心に活動中。アイドルも好き。
EIGA・BUの「見る」担当。
HP:http://nerd-magnet.com/

ナードマグネットのインタビューはこちら