[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2014/12)


キャンドルも! 十字架も! 我に力を与えたまえ!!
ゴゴゴゴゴゴ………

てなわけでありまして、ええ。クリスマスシーズンですな。

12月に入ったばっかやというのに街は一様にクリスマス、イルミネーションしたおしておって、
それにつられて一般の民家までも各々イルミネーションするのが流行っておる様子。
これはよろしい。実によろしい。
日本人の節操のない宗教観が、と、どうこう言う人もあろう。だが、楽しいものを積極的に楽しむ姿勢、これ、わしは実に良いと思う。
ただ、12月頭からもう出して、年明け頃までだらだら光らせておっては、せっかくのわくわく感も半減してしまわぬかね。
こういうシーズンもののイベントに最も重要なのは、美味しいタイミングを逃さず、かつ、引き際が美しいこと。すなわち、
小粋にライドンタイムすることなんですね。ええ。小粋にライドンタイム。

過去にこのコラムで、最も小粋なイルミネーションの仕方を紹介したのやけど、その後、どうですか。
やりました、という話は未だ一件も寄せられておりません。

今回はそのおさらいをしつつ、さらに上級者向けのスペシャルテクニックを紹介したいと思います。
皆さんも、今年こそ小粋にライドンタイムしてみてはいかがでしょうか。小粋にライドンタイム。ええ。


おさらい、通常編。

まず、大量の電飾と完璧なデザインの設計を事前に準備しておきます。
それらを準備していることは、決して誰にも悟られないようにします。
23日まで何もせず、隠し通します。

23日深夜、日付で言うと24日。
皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないように、それらを速やかに設置します。
極力ライトなどを使わず、目立たないよう作業をします。
完成しても、試しに点灯させたりしては、これ台無し。一発勝負。設計の腕が問われます。

24日夜、クリスマスイブの日が暮れたら、どこよりも超大作なイルミネーションを、ここぞとばかりに光らせます。
明るさ、派手さよりはむしろ全体の一枚絵としての完成度を重視する壮大な感じのデザインが良いでしょう。

そして、その日の深夜、日付で言うと25日。
皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないように、それらを速やかに撤去します。
極力ライトなどを使わず、目立たないように作業をします。
夜が明けたら、何食わぬ顔でケーキ、チキンなどを食い、テレビなどを観てクリスマスを過ごします。

道ゆく人々は、
ここここ、ここも凄かってん。めっちゃきれいな絵で、超大作って感じで、
あれ? たしかこのへんやってんけどな…
となります。

以上。これが最も小粋なイルミネーションの仕方であります。
皆さんも今年はチャレンジしてみてはいかがか。

てなもんで過去に紹介しましたが、これ、誰もやらずであった。

いや失礼。皆さんを少し侮っておったよ。
そんなもので最も小粋だとは片腹痛いと。
ちゃんちゃらおかしいぜ、試す価値もありゃしねえと。
さもありなん、皆、とうの昔に上級者、エキスパート・コイキストでありましたな。失敬失敬。
そんな皆さんに今回は、エキスパート専用のさらに小粋なイルミネーションの仕方を紹介いたします。
皆さんご一緒に、せーの、「小粋にライドンタイム!」
ええ。それでは、まいりましょう。


上級編。

まずは通常の一般的なイルミネーションの準備をします。
サンタやトナカイ、クリスマスツリーなど。
あまり早くから光らせては台無しですので、20日前後から点灯するのが良いでしょう。
そのまま普通のイルミネーションをしている家としてクリスマスを迎えます。

そして25日深夜、日付で言うと26日。
皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないように、それらの一部を組み替えます。
極力ライトなどを使わず、目立たないように作業します。
ごく一般的なイルミネーションをしている家庭というのは、世を忍ぶ仮の姿。
恋人達のストーリーはクリスマスが始まる瞬間に、コイキスト達のストーリーはクリスマスが終わった瞬間に動き出すのであります。
チキンはたらふく食ったかい? ここからはタフなミッションだぜ。体力を蓄えておけよ、ガイズ。
では、いってみましょう。

26日の日が暮れたら、組み替えておいたイルミネーションを点灯させます。
「クリスマスを終えたサンタがトナカイのそりで空へ登って行く。行き先は月。」の図。
もちろん事前のパーフェクトな設計が不可欠です。

その日の深夜、皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないようにまた組み替えます。

27日の日が暮れたら、点灯させます。
「サンタの仕事はまだ終わってはいなかった。月にいるウサギたちに今年の分のプレゼントを配るサンタ」の図。

その日の深夜、皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないように組み替えます。

28日の日が暮れたら、点灯。
「月にいるウサギ総出のサポートのもと、夜を徹して今年の分の大量の餅をつくサンタ」の図。

その日の深夜、組み替え。

29日夜、点灯。
「大量の餅を抱え、地上に降りるサンタ。目の下にはくま。だがサンタの仕事はまだまだこれからである。やれやれ、毎年のことながら、相変わらずハードな稼業だぜ。」の図。

30日夜。
「寺に降り立つサンタ。和尚にプレゼント。和尚からの今年のリクエストはプレステ4であった。足袋にぶち込む。」の図。

このあたりで、寝坊による遅刻と寝不足によるミスの連続により職を失います。
ケーキを食っておくのは、この時のためさ。しっかり脂肪を腹に貯めておけよ、ガイズ。

31日夜。
「除夜の鐘をつくサンタ。顔には疲れの色が濃く出ているものの、身体には力が漲っている。まだまだ歳だとは言わせねえぜ、このピュアな音色が響かせられるうちはな。リッスン!」の図。

1日夜。
「さあ、今年最後の大仕事だぜ。と、ふたたび各家庭をまわり、餅を撒くサンタ。医者とサンタに正月はない。だがこれが俺の選んだ仕事、孫に見せたい背中なのさ。もっとも、孫は今頃夢の中だがね。」の図。

2日夜。
「ようやく一年の仕事を終え、帰宅するサンタ。さすがに憔悴しきっているが、寝る前に余った大量の餅を腹に詰め込む。廃棄するにも費用がかかるし、なにより、食い物を粗末にするやつに子供に夢を配る仕事が務まるかね? しかし、毎年のことながら食っても食っても減らんぜ。ふいー、げふ。」の図。

そしてその日の深夜、皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないように、
イルミネーションを全て撤去します。
サンタも憔悴していますが、ここまでくれば皆さんの体力もそろそろ限界でしょう。しかし、コイキスト達のストーリーもいよいよ大詰め。あと一息です。
ちなみにこのあたりで、あなたは私たちより電飾の方が大切なのね。さよなら。少しは今の自分の姿も照らしてみるといいわ。と、妻と子供が出て行きます。
寂しくなったら、残しておいたキャンドルに灯をともせよ、ガイズ。

3日。日が暮れても、何も点灯せず、真っ暗な夜を迎えます。
サンタの仕事も無事終わったので、ここまで連続したストーリーものののイルミネーションもこれにて終了、かに思われましたが、
その日の深夜、皆が寝静まった頃に、誰にも悟られないように、エキスパート・コイキスト達は作業を開始します。
今までの組み替えではなく、1からの設置。体力も限界でしょうが、これが最後のミッションです。

4日の夜。

最後に点灯するのは、

「サンタの遺影に手、もとい前足を合わせるトナカイと、寝室で、そりに乗っているような姿勢で眠っている幼い孫」の図。

道ゆく人々は、
ここここ、ここも凄かってん。
クリスマスからずっとストーリー仕立てになっててな、昨日で終わってもうたんやけど…

あれ? 今日もやっとるな。

………


サンタのじいさん……。


となります。


以上で今年のイルミネーションは全て終了です。
長い間お疲れ様でした。

思えばこの数日で失ったものばかりで、得たものはただのちっぽけな自己満足だけかもしれない。
だが、コイキスト達は、そのちっぽけな自己満足に全てを賭ける。
それが正しいのか間違っているのかはわからない。
ただ、俺達の今年のイルミネーションは、間違いなく小粋だった。それだけは事実だ。
おっと、涙はしまっておけよ、ガイズ。
明日からはまた、職探しという新たな戦いがはじまるのさ。まったく、タフなミッションだぜ。


といった次第ですので、ひとつよろしく。
皆さんも今年は、小粋なイルミネーションにチャレンジしてみてはいかがかでしょうか。
それでは皆さんご一緒に、せーの、
「小粋にライドンタイム!!」

ええ。また来年。シーユー。