[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2016/02)


今、ふんどしが熱い。


真に理想的な下着とは何か? 皆さんは考えたことがあるだろうか。

ゴムの締め付けがないため血やリンパの流れを妨げず、通気性がよいためムレにくく、
冷えない、むくまない、かぶれない。おまけに洗濯もきわめて楽。

オー、なんそれ、どこの新商品?
わこーる? らヴぃじゅーる?

否。日本古来のアンダーウェア、ふんどしである。

中でも冷えを防ぐ効果はこれ抜群。
気になる下半身のダイエットにも効果があるとして、昨年から若い女性を中心に起こったふんどしブーム。

各メーカーから従来のイメージを覆すかわいいデザインのふんどしが発売され、
なんこれ快適! もうふつうのパンツには戻れない! との声も多数。
今、ふんどし女子、略して「フンジョ」が増えている、という。

ほんまか。
「静かなブーム」ほど怪しいものはない。
しかし拙者、昔から血やリンパの流れが非常に悪く、冷えからくる下半身太りが慢性化しておるのであって、
下半身ダイエットという言葉に非常に弱い。
女性用が推されてはいるが、男性用がないわけはあるまい。なんせふんどしである。
気になる。こいつあ、気になる。

かねてより気になったものはほっておけん性格の拙者、さっそくリサーチを開始した。


調べてみた結果、実際のところは案の定さほど流行ってはおらず、若い女性の大半は「フンジョ? なんそれ?」
という状態であった。

さもありなん、ふんどしには、「語感がすごい」という重大な欠点がある。
ちょっと発音してごらんなさい。ふんどし。 ほれ、この問答無用の男臭さ。無駄な重厚さ。
若い女性が好きなものったら、ちわわ、とか、しふぉん、とか、ふらぺちーの、とかであろう。
ふんどし。 ほれ。 どうかね。
さすがにメーカー側もその辺はわかっていると見えて、色々とネーミングを工夫しており、

ふんどしとパンティーの間をとって「ふんティー」
おしゃれなふんどしで「SHAREFUN(しゃれふん)」
愛のあるふんどし「aifun(あいふん)」

しかし、やはり「ふん」の部分をピックアップすると、おしゃれさに限界を感じざるを得ない。
かといって「どし」は輪をかけて使い物にならない。
もっとキュートかつふらんそわな、若い女性に抵抗のないネーミング、あれへんの。とさらに探してみたところ、
ええ、ございますとも「ふん」も「どし」も使わないネーミング。
ごらんください、こちらの商品、一見ふんどしとは思えないかわいらしいデザイン。
ふんどしの中でも前たれのない、ふつうの女性用パンツのような型、「もっこふんどし」から名をとった、その名も! 

「もっこパンツ」!!

てな具合であったから、さすがの拙者も思わずゲットワイルドであった。



しかしながら、さほど流行っているわけではないものの、ふんどし愛用者の感想としては、やはり下着としての性能に関しては実際にこれまさしく完璧だそうだ。

気になる。やはり気になる。
買ってみるか、ふんどし。
いや、買ってみるのか? ふんどし。

いやいや、まさかね。
なんて言いながら、気づけば「ふんどし 男性用」などで検索を繰り返す日々。

かねてより気になったものはほっておけん性格の拙者。
デパートの下着売り場を通りかかればふんどしを探し、
ドン・キホーテに立ち寄ればふんどしを探し、
家に帰ればネットでふんどしを探し。

おそるべしふんどしの呪縛。
解き放たれるには、もはや買ってみるよりほかになかった。
ちなみに、立ち寄ったどの店にも、ふんどしはなかった。


ポップでキュートな女性用ふんどしとは打って変わって、男性用は全体的にいささかパンチが効いている。

女性用のカラフルなドット柄や和のテイストを上手く取り入れた花柄などに対し、
男性用は真っ黒、虎柄、迷彩柄。
迷彩のふんどしを締めて、いったい何から紛れるというのか。
サイトによっては、「漢の勝負下着、褌。」などと筆文字で荒々しく書かれた下に、赤ふんどし一丁のおっさんが仁王立ちしている、といった有様。
違うんだ。男だってポップにリンパの流れを改善したいんだ。
ありまへんの、もうちょいキュートかつふらんそわな、若い男性にも抵抗がなさそうなやつ、
ありまへんのか、もええわい。一番安いやつにしたるわい。
と、半ばやけになり、
「ネパールの職人が作った生成り無地のオーガニック麻ふんどし」を購入。
ネパールにふんどし職人いますのか。
おそらく今までの生涯でもベストテン入りはかたいぐらいの妙な買い物であろう。
とはいえ、ようやく念願のふんどし購入と相成った。


数日後届いた包みには、ふんどし本体、正しい身につけ方のイラスト、そして「この度はふんどしをご購入いただきありがとうございます。末長くご愛用いただけることを願って…。」という手書きのメッセージ。

なんぞなそのセリフ。
ものがふんどしだけに違和感がすごい。
違和感がすごいが、しかし今時めずらしい丁寧なお店である。

オーライ、受け取った。
遠くネパールの地からのL・O・V・E、確かに受け取った。
末長く愛用しようとも。
さあ、デアカムザタイム。
この数日間探し続けたふんどしが、今この手の中にある。
正しい身につけ方のイラストの手順にそって、いざ、装着!


一、腰のあたりに後ろからふんどしをあてがい、

ふむふむ。

二、ひもを前にまわして結び、

ほうほう。

三、布の部分を股の間を通して前に持ってきて結んだひもの間を通したら、

OK。通したら……

四、仕上げに、かっこよく形を整えます。

ふむ、仕上げにかっこよく形を……



かっこよく形を……



ぬぬぬぬ、



ぐぬぬぬ、



…………




整わぬ!!



あっちを引っ張ってみれど、
こっちをたわませてみれど、
一向にかっこよくならず、

いや、整ってはいる。
ふんどしとして整ってはいる。

しかし、どう、この、なんちゅの、
ふんどしふんどしした感じ。

いや、当たり前なんやけど、なんちゅの、この、
ふんどしふんどしした感じ。



…………



はっ、



わしは今までいったいなにを……?



ふんどしの呪縛。

締めることでようやく解けた、ふんどしの呪縛。


気づけば、冷えのきびしい夕暮れ過ぎ、安マンションの一室にて、
鏡の前で呆然と立ちつくす男がひとり、全裸にふんどし一丁。

生成りの白が蛍光灯の光にふわりと映える。
誰も見ておらぬ、誰も見ておらぬが、鏡の向こうに他ならぬ己の目がふたつ。
ああ、このふんどしが、もしも迷彩柄であったなら。
この己の冷めた目から、少しは紛れられたであろうか。

熱を失ってなにする気にもなれず、なんとなく眺めた携帯のニュースによると、数日後には、何十年ぶりかの大寒波到来との予報。
20代最後の冬の去り際のことであった。






余談ではあるが、

日本ふんどし協会によると、来たる2月14日は「ふんどしの日」だそうである。

年頃の女性の皆さんにおかれましては、今年は意中の男性に、チョコではなくふんどしを贈るなどしてみてはいかがだろうか。

さすれば、
義理チョコ代わりの斬新なネタだと捉えられ、なんや自分めっちゃおもろいやん、となり、

こないだもらったふんどしな、あれ履くのもなんかアレで、部屋に飾ってんねん。

えー、ふんどし飾るってどんなんなん?

ん、なんやったら見に来るか? 昨日カレーめっちゃ作ってしもたから、よかったらちょっと食うの手伝って。
となり、

彼の部屋にしばしば出入りする関係になるも、なんでも気を使わずに話せる友達だと思われ、
気づけば恋の相談に乗っている自分がいた、といった具合になることでしょう。

それもまた青春ってやつだぜ!
それでは今回はこの辺で。



ーーーーバンドのお知らせーーーー


2月7日日曜、天王寺Fireloopにて
自主企画「ベアフットエイジーズ」シリーズの第4弾を開催します。

出演は

モケーレムベンベ
明日、照らす(名古屋)
3markets[ ](東京)
the senca(名古屋)
ハンブレッダーズ
いおかゆうみ(O.A.)

ぐっとくる音楽の日です。
我々はコーラス、アコースティックギターにいおかゆうみを迎えたスペシャルバージョンで演奏します。