[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2014/07)


実に昨今のバンドTシャツ、これ一様にしゃれおつな形状をしておるのであって、
スリムかつスタイリッシュな丈の袖からは、わき毛までもがスタイリッシュしており、絶望。

やむなく、夜な夜なフレディ・マーキュリーになりきり、どんすとっぷみーなう、どんすとっぷみーなうと舞い踊るも、
ただただ隣人が壁を叩くのみでありました。そらそうか。すまん。


拙者、何を隠そう、高校時代のあだ名は「わっきー」なのであって、
これ、陸上部に入部した初日、準備体操で腕を回している際、隣にいた漁府君から付けられたものである。

曰く、「黒っ!なんそれ、わっきーやん!」
とのこと。

つまり、濃ゆいねんわ、わき毛が。
あかんぐらい出ますねんわ、袖から。

これは、どうかね、色気づくのは性に合わんが、
さすがにバンドマンとして、人前に出る職の人間としてどうかね。

このままでは、夜毎どんすとっぷみーなうし続け、隣人との関係は悪化し、マンションを追い出され、職を失い、女性には愛想をつかされ、路傍に倒れこむも雑草の類と思われ、植え込みの中で生涯を終えることになるであろう。

ストップ・ミー。
ストップ・マイ・わき毛。

かくして、28歳夏、高2の時に一瞬色気づきかけた時以来、実に10年以上ぶりのわき毛処理に挑戦する拙者であった。

方法は、脱毛クリーム。

適量を付属のヘラに取り、脱毛したい部位に塗りつけよ、とある。

服に着くとアレだってってんで、パンツ一丁になり、めとん、めとん、とわきにクリームを塗りつける俺、深夜1時半。

適量とは毛が完全に隠れるぐらいとのことで、
あらかじめハサミである程度カットしておいたにもかかわらず、さすがの剛毛である。
なかなか隠れてはくれず、ものっそい大量のクリームを塗りつけることとなり、

めとん、めとん、

めとん、めとん、

とやるうち、次第になにやら妙なテンションになり、

ここも脱毛したろかしら、そこも脱毛したろかしら、と、
へその下、今の人が言うかは知らんがいわゆるギャランドゥと呼ばれる部分、
太ももの裏側、いわゆるフィナンシェと呼ばれる部分にも、めとん、めとん、と塗りつけ、
となると終わるまで立った状態で身動きがとれず、

直立合掌し、ガタメキラ、ガタメキラと唱え、また隣人は壁を叩き、外では猫が鳴き、夏の風が吹き、

このつるつるばでぃでもって、この夏のキラークイーンの座、ひとりじめやで、と、ほくそ笑む間に所定の時間7分はとうに経過し、

若干ひりひりし出したわきに、慌ててクリームを落とすことと相成った。

ヘラでそぎ落とすべしとあるものの、ひりひりしてやれず、しからばとティッシュで拭えば、んべっ、んべっ、と剥がれ落ちるわき毛、傷みに傷んでさながらもずくのような感じになっておる。

拭い終え、シャワーで流し、見事成功、つるっつる。

ホントの私、デビュー?
否、偽りの私、デビューである。

時に、偽りが礼儀となる場合もある。大人のファイティングスタイルである。



翌日、夜のスタジオにて。

ギターをじゃこん、じゃこんと弾いておれば、どうにも腕の動きに合わせてわきがちくちくする。
見れば、早くもブランニューなフレンズが顔を出しており、荒れた肌と、かいた汗と、ちくちくの刺激でもって、絶妙にわきに染みるのであった。

思い返せば高2の夏、

みんなで海に行くってんで、さすがにこのわきで歩いておっては、いかにナイスガイな拙者といえど、
浜辺のお嬢さん方がいささかシャイになるのもやむをえまい。
まだ見ぬお嬢さん方のために、一肌脱ぐかね、なんつって、わきにクリームを塗りつけ、
合掌してガタメキラ、ガタメキラと唱え、見事肌が荒れて、
翌日、海水が染みに染みて海へ入れず、
わき毛丸出しで堂々とはしゃぐ友人らを尻目に、三途の川の石よろしく延々砂を積み上げ続ける、なんて結末になったのであった。

今も昔も、青春とはかくも染みるものであろうか。わきに。


スタジオから帰り、改めて鏡を見れば、わずか一日で思ってたよりも健やかに育っており、
もはやこれ、宿命というやつか、生涯負うていく業かと絶望。

やむなく、フレディ・マーキュリーになりきり、ままみあ、ままみあれっみーごー、と舞い踊るも、
またぞろ隣人が壁を叩くのみであって、そらそうか。すまん。

ねばれっちゅごー、なんて隣から返ってきたら、友達になれるのにな、なんてちょっと思ったけども、あかんか。