[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2014/05)
先日、我々モケーレムベンベは二曲入りシングル、「ループ・ザ・ループ/ブラックセイバー」をリリースしました。ひゃっほい。
この、ブラックセイバーという曲、なんと昔持っていたミニ四駆に自分を重ね合わせて作った曲であって、
とりあえずタミヤ模型には音源を送る、という手はずになっております。
ライバルはゴールデンボンバーです。
我々の曲を機に、とは言わんまでも、
もう一回ぐらいミニ四駆ブーム来たら嬉しいのやが、時代が変わってもーとるから難しいのかな。
小学生ぐらいの男子に流行る遊びに一番重要なのは、
カスタマイズできる、自分だけのオリジナルが作れる、ということやと思うのです。
そのオリジナル同士で対決できれば言うことなし。
ミニ四駆は、その点において完璧だけども、
今の時代、スマートフォンひとつあれば遊びには不自由せんものな。
携帯のなかった世代としては、なんやら寂しくもあります。
カスタマイズ、オリジナル、対決、小学生の遊び、で、ちょっと思い出したので、
今回は小2の時に遭遇して以来、28歳の現在まで一度も越えられたことのない、我が生涯ナンバーワンの理不尽体験についてお話しますね。
拙者、小2の終わり頃まで、母親の方針で京都にあるキリスト教の私立の小学校に通っておりまして、
毎日片道1時間、大阪は寝屋川市から京都西院まで、3つ上の兄と一緒に電車に揺られておったのです。
これ、小2と小5の男子にとってはなかなか酷なミッションであって、
今みたいに携帯で暇がつぶせるわけでもなく、おのれの力のみで退屈をしのがねばならん。
やむなく、しりとりをする、ひたすら駄洒落を考える、回文を考える、などしてみたものの、どうにも面白くない。
なんかいい方法ないか、と考えた結果、
「自作の、想像上のキャラクターを、想像上で戦わせて勝敗を競う」
というなんともクリエイティブな遊びに辿り着いたのでありました。
当時はスーパーファミコン全盛期であり、ドラクエ、FFの黄金時代。
敵やアイテムの詳細なデータが載っている攻略本を眺めているだけで、何時間でもわくわくできた、なんてのは拙者だけではあるまい。
そこに載っている敵の超強いボスキャラのようなイメージでもって、
パラメータを設定し、かっこいい必殺技を作り、「雷属性の攻撃は吸収する」などの能力を考え、
いざ勝負、うお、なるほどそうきたか、しからばわしは吸収した電気を放出して攻撃、びびびび、
ううむ、それはダメージ500ぐらいやな、それならこっちは…
なんて感じで。
相手の繰り出す技の「なんだか凄そう度」と、自分の設定した防御力を照らし合わせたりして。
「ぜったい1発で死ぬ攻撃ー、どーん、はい死んだー」
とかやると、システムが破綻してまうので、自ずと空気の読み合い、さじ加減vsさじ加減。
それは紳士の戦いでもあったのでした。
2人の実力は伯仲、語彙力の差で若干兄が有利ではあるが、
なかなかの名勝負を繰り広げながら登校。
作ったキャラクターがどんなのだったか、
はっきりとは忘れてしまったけども、
雷属性の、ドラゴン族の血をひく、刀使いの忍者、みたいな感じだったと思う。
我ながら、中二ならぬ、小二病丸出しの設定。
名前を忘れたのが不便なので、仮に「ハイパーサンダードラゴン忍者」としておきますね。
小二のネーミングは、だいたいそんなもんである。
行きは兄と2人なのやけども、
帰りの電車は、いつも4年の、のぶと君、あだ名はのっくん、名字は忘れた、
と、途中まで一緒であった。
仲良し三人組であった我々。
当然、のっくんも戦いに参加することになったのやけども、
問題は彼が考えてきたキャラクターである。
忘れもしない、その名も「なんでもタガー」
その特徴は、おお、神よ、「なんでもタガーは、なんでもできる。」とのことであったよ。
デレレレレン!!
ハイパーサンダードラゴン忍者 vs なんでもタガー!!
ユーレディ?
ゴー!!
井澤(以下、井)「刀で攻撃!忍者は素早いから二回攻撃!ザザシュッ!」
のっくん(以下、の)「なんでもタガーのほうが先に攻撃!
素早さ255やから。
心臓をにぎりつぶした!ズガーン!」
井「心臓にぎりつぶした、て。くさりかたびらとか、着けてるで?」
の「いや、できるねん、なんでもタガーやから。にぎりつぶした。ズガーン!」
井「ううむ、心臓つぶされたら、死ぬなー。」
の「なんでもタガーの勝ちな。」
デデデデーン!!
ウィナー、なんでもタガー!!
って、んなアホな、神よ。
どうやらなんでもタガーの必殺技は、鎧越しであれ何越しであれ、一撃で心臓を握りつぶすことができるというものらしい。
この、小学生にとっての、心臓を握りつぶす、という言葉の説得力である。
あ、そら死ぬわ、となり、惨敗に次ぐ惨敗。
忍者らしく分身の術を駆使して応戦したものの、一人ずつ順に心臓をつぶされ、
こちらの攻撃は「なんでもバリアー」に阻まれ、
おまけに相手のHPは9999、こういうのはだいたい上限が9999と決まっておるのやけど、当然最大値、さらにダメージを受けても再生能力があるという塩梅で、
これ全く太刀打ちできん状態であった。
とりあえず、あの心臓を握りつぶす攻撃、あれをなんとかせねばよ、と、日々考えに考え、ついに思いついた秘策。
それは、
そうや、心臓が、なかったらええのんや!
デレレレレン!!
サイボーグハイパーサンダードラゴン忍者 vs なんでもタガー!!
ユーレディ?
ゴー!!
の「心臓を握りつぶした!ズガーン!」
井「ふふふ、なんでもタガーに敗れたハイパーサンダードラゴン忍者は、サイボーグ化して復活したのだ!心臓は、ない!」
の「な、なんだと!?」
井「ドラゴン族の爪で攻撃!ドラゴン族の爪には、実はバリアーを破壊する力があったのだ!パリーン!」
こういう、パリーンとか、いかにも割れたぜ!って感じの擬音は非常に有効である。
の「しまった!300のダメージ!うむむむっ」
井「ふふふ、さらに刀で攻撃!忍者は素早いから二回攻撃!ザザシュ!」
この時代、ゲームの忍者はたいてい二回攻撃するものであった。
の「ぐぬぬ、200のダメージかける2!」
来とる!今回は、流れが来とるぞ!
の「うむむ、心臓がないならば、」
井「ないならば?」
の「なんでもタガーは、相手の体内に心臓を作り出した!」
井「なにっ、ば、ばかな!」
の「心臓を握りつぶした!ズガーン!」
井「ぐはあっ!」
アホか、とお思いでしょうが、小2の拙者にとって、心臓を握りつぶしたって言葉の説得力、それイコール死なのであります。
井「くっ、だが、サイボーグ化したハイパーサンダードラゴンの忍者には、身体を自己修復する機能が付いていた!心臓を修復している!」
の「その隙に、なんでもパンチ!攻撃力は255!ドゴーン!」
井「普通のパンチ来た!ぐ、3000のダメージ!」
攻撃力255とは、無論パラメータの最大値。当時の我々はどちらかというとFF派であった。
そして忍者と名のつくキャラは、たいてい素早いかわりに防御力とHPが低めに設定されている。残りHPは1000ほどであった。
の「心臓の修復にはまだ時間がかかるはず!とどめだ!」
井「ぐっ、もはやここまでかっ」
の「くらえ!なんでもパンチ!ドゴー…」
兄「はたしてそうはいくかな!!」
の「なにっ、貴様は!」
井「名前も特徴も全然覚えとらん兄のキャラ!!」
兄「ふはは、俺のキャラもサイボーグとして復活していたのだ!」
の「むう、こしゃくな、心臓を握りつぶした!ズガーン!」
兄「甘いな!サイボーグ化する時に、心臓を10個に増やす改造をしていたのだ!攻撃!ドバシュ!」
の「ぐう、200のダメージ!握りつぶした!ズガーン!」
兄「まだまだ8個あるぜ!攻撃!ドバシュ!」
井「修復完了!そして今のうちに雷のエネルギーを溜める!グゴゴゴゴ……」
の「させるか!心臓を握りつぶし…」
兄「おっと相手はこっちだ!攻撃!ドバシュ!」
の「くっ、よかろう、お望み通り貴様から先に片付けてくれる!ズガーン!」
兄「攻撃!ドバシュ!」
の「ズガーン!」
兄「ドバシュ!」
の「ズガーン!」
兄「ドバシュ!」
……………
の「とうとう最後の一個だ!くらえ!心臓を握りつぶした!ズガーン!」
兄「ふふふ…」
の「むっ、なにがおかしい!」
兄「この最後の一個、心臓と見せかけて、」
の「見せかけて?」
兄「実は爆弾だったのだ!!」
の「なんだとっ、そんな事をしたら貴様も、ただでは済まんぞ!」
兄「もとよりそのつもりだ!地獄まで道ずれだぜ!
フォーーーーン………
ドッッ
ガーーーーーーーン!!!
ボガウガボガウガボガウガ……」
律儀に最初の衝撃波から余韻の小さい爆発までを表現した、渾身の擬音。
そして、自爆攻撃という凄み。これにはさしものなんでもタガーもただでは済まなかった。
の「ぐおおっ!5000のダメージ!残り2000!」
井「そして!!」
の「はっ、しまった!」
井「ずっと溜めていた雷のエネルギーを、最強のドラゴンの角で作られた伝説の刀に込めて!忍者の里に伝わる究極の秘剣!!」
時はまさに、ドラゴンボールZ時代!
アニメで、1話の半分ぐらい悟空が、はああああああ………!
と言っていたその時代にあって、力を溜めるという言葉の説得力!
どこから取り出したか、伝説の刀!
そして、究極の秘剣という、問答無用で凄そうな響き!
考えうる限りのロマンを満載して、なんでもタガーに突進するサイボーグハイパーサンダードラゴン忍者!!
井「ビジジジジジ……
ズバッッシャーーーーーン!!!」
の「ぐおおおっ!2000のダメージ!」
兄「やったか!?」
の「だが!再生能力によってすでに1回復している!残りHP1!そして、これで終わりだ!心臓を握りつぶした!ズバー………」
井「おっと、なにか忘れていないかな?」
の「なにか?」
井「忍者は?」
兄「あっ、素早いから!」
の「はっ、」
井、兄、の「二回攻撃ッ!!!!」
井「ズバッッシャーーーーーン!!!」
の「ぐわああああ!!!」
デデデデーン!!
ウィナー、サイボーグハイパーサンダードラゴン忍………
の「デーデン…」
…………??
の「デーデン…
デーデン…
デーデン……」
井「な、なんだ?」
の「なんと、なんでもタガーの体が、変形しだした!
デーデン…
デーデン…」
井「なにっ、まさか、まだ真の姿が!?」
の「デデーデンデデーン!!
なんでもタガーは、なんでもリボンに変身した!!
なんでもビーム!食らったら死ぬ!シュバーン!!」
井「ぐおわあーーっ!」
デデデデーン!!
ウィナー、なんでもリボン!!
って、んなアホな、神よ!
名前、ださいぜ、のっくん!
ちなみに、なんでもリボン、HPは200万だそうであった。
実に世に理不尽なことはあるものでして、
おかんもいつの間にやらクリスチャンじゃなくなっておったけども、
拙者が神を信じなくなったのは、この時からかもしれんなあ。
ってのは、さすがに嘘やけども、
まあ、この歳になってみても、なんでもリボンに勝つことに比べれば、
大概のことは己の力で乗り越えられるんやないかと思っておる次第。
や、毎度長々とお付き合いありがとう。
以上が拙者の人生最大の理不尽体験の全貌であります。
書いとってなんだか、今頃三十路、のっくんのその後がわりと心配になってきたのであって、
その点に関してだけは、思いやりのあるナイスガイになっていることを神に祈るのみでありました。
南無南無。