[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2013/09)


前回ずいぶんと気張りすぎたもんだから、今度はちょっと箸休め的に、
だらっと書こうと決めて早、3時間。
自然体に、等身大に、ありのままを記そうとするも、
ありのままの自分からは何の言葉も生まれ来ず、絶望。

やむなく、赤海老の殻で出汁をとる、焼酎をポンジュースで割って飲む、フルーツグラノーラを食べる、などしてみたものの、
ただただ、心持ち長くなった夜に雨音が響くばかりでありました。

秋が、来とるね。




20代も半ばを過ぎると、秋ならでは、なんて事柄もめっきり減って、
秋刀魚や栗は旬来れども、いかんせん俺、旬ならず。
気付けば冬。年越して、こないだ桜が咲いたと思ったら、あらやだもう海開きですって。
みたいなことになりがちですけども、

学生の皆さんにとっては、やれ体育祭やれ文化祭と、ワクワク百倍シーズンでありますから。

今回は拙者の学生時代の文化祭についてお話しまして、
昔より幾分か冷えた秋風に、そっとワクワクの香りを添えようと思う次第であります。
よろしくどうぞ。





とりあえず縁日。
消極的クラスの定番。


劇やる? がらじゃないし、
お化け屋敷? 大変そうだし、
食べ物出す? 検便とかあるし。

なんて流れで、とりあえず縁日風に色々やる。というのが1年の時。

金魚すくい、ヨーヨー釣り、なんてのが並ぶ中、
的当てコーナー担当になった俺、と男子数名。

木の板に何個か穴をあけて、
その穴を活かす感じになんか絵を描いて、
そんで、投げたボールが穴に入れば景品、みたいな感じにしよう。
っていうので大体の流れはまとまるのやけども、
高校1年男子、数名集まって、的当ての的に、である。
果たしてまともな絵など描くかね?

ミッキーマウス? プーさん? 当時流行りだしていたONE PEACE?

否。

完成したのは、何者でもない筋肉質の全裸のおっさん。
が、左右の手にグローブを構え、仁王立ちしている姿であった。
左右のグローブにひとつずつの穴。そして、全裸の股間に、ボールがギリギリ入る大きさの穴。

その名も「マッチョ当て」

誰に非があるわけではない。
ただただ我々は、高校1年、男子であったのだ。




迎えた文化祭当日。
我々の製作した「マッチョ当て」は、まさかの大盛況。

誰もがふたつのグローブには目もくれず、股間の穴を、もう、狙うわ狙うわ。

終わってみれば我がクラスの催しの、半分以上の売り上げをマッチョ当てで稼いだ、という結果になった。
ええのかしら。
なんにせよ、楽しい文化祭であった。





翌年。



しかたなく縁日。
まとまりのないクラスの定番。


劇やりたい!
いや、お化け屋敷だ!
いやいや、文化祭といえば食い物だ!

なんていくつかのグループがそれぞれ譲らず、
ああでも締切や、決めんならん。
やりたいことがまとまらんのやったら、もういっそ縁日風に小さい店を色々やるということでどないだ。
まあ、その中で劇なんかは難しいけども。

なんて流れで、再び縁日風に。というのが2年の時。


前年のマッチョ当て製作部隊は、ほぼ俺と同じクラスにいた。
やることはひとつである。

「俺たちは、的当てをやらせてくれ。」



そして完成したのは、筋肉質の、Tシャツにジーンズというラフな服装のおっさん。
相変わらず両手にグローブ。
そしてジーンズの股間の部分はファスナーが開いており、その中にボールがギリギリ入る大きさの穴。

その名も「マッチョ当て2 〜チャック開いてる編〜」

誰に非があるわけではない。
ただただ、我々は、高校2年、男子であったのだ。






さらに翌年。




ホームルームの時間。文化祭の出し物を決める会議が行われていた。

この期に及んで、他に選択肢などあるかね。
縁日風にしたいと主張する我々マッチョ当て製作部隊。
クラス替えにより、バラバラになってしまった隊員は、このクラスには3名しかいなかった。

対するはお化け屋敷にしたいと主張する女子。
最後ぐらい全員でひとつのことをやらんでどうすんの?
うむ、なるほどその通りである。でも、わし、やりたいんや。ここまで来たら、3年連続でマッチョ当て、やりたいんや。

てなわけで、その二つから多数決で決定することになったのだが、
「マッチョ当てって、アレでしょ?
あの、なんちゅーか、あのアレでしょ?
そんなん、高校最後の文化祭でやるとか嫌やわ。」と女子。
ちくしょう、全くもってもっともな意見だぜ。

結果は惨敗、
出し物はお化け屋敷に決定した。



決まってしまったもんはしゃーない、と、気持ちを切り替え、
お化け屋敷の準備に臨む俺。
初めてクラス一体となって作り上げる出し物である。
これ、非常に楽しい。これこそ文化祭、てな感じだ。

どんどんとクオリティーを上げていく衣装や小道具。
それに伴ってどんどんとモチベーションを上げていくお化け役の面々。

ただ、この、時折浮かび来る寂しさはいったい何かね?

いや、何でもなかろう。今の拙者は「妖怪・犬ゾンビばばあ」である。うらめしやうらめしや。




そんな準備期間中のある日、我々マッチョ当て製作部隊は食堂で昼食をとっていた。
クラスが変われど相変わらず仲は良く、特に声をかけたわけでもないのに全員が集まっている。



「で、」



ふいに、メンバーの一人が口を開いた。



「今年はどんな感じにする?」


聞くまでもなく、マッチョ当てのことである。


「やれんの? 今年。うちはお化け屋敷やし」

「うちのとこは劇やしな」

「無理ちゃうか、今年は。」

と、最初は皆難しい顔をしていたが、

「うちもなんや食べ物屋やる言うてるけど、
でもまあ、とりあえず、」


「とりあえず?」


「なんにしても、やるやろ?」


その一言で、我々の、高校最後の文化祭が、始まったのだった。












大成功に終わったお化け屋敷をばらし終え、急いで向かった一室。
何の部屋だったか忘れたけども。

その中からはすでに、ボールが板にぶつかる音が聞こえていた。
いつもの、マッチョ当ての音だ。


「入った?」

「まだ。あかんわ、全然。」


ボールを投げる面々。

がいん、がいん、

跳ね返されるボール。


自腹で買った板に描かれているのは、仁王立ちする筋肉質のおっさん。
が、二人。マリオとルイージ風の格好をしており、手にはグローブ。

そして、もちろん、股間の部分にはボールがギリギリ入る大きさの穴。


「マッチョ当て3 〜マリオブラザーズ編〜」
間違いなく今までで最高傑作であったけども、
結局文化祭本番ではどこに並べることも出来なかった。

メンバーはそれぞれ自分の出し物が終わると大急ぎで片付けを済まし、
そして、この部屋に集まって、最後のマッチョ当てと戦っていた。

がいん、がいん、

「各クラスで出た大きいゴミは、何時までにどこどこへ集めて下さい。」という放送。
集まりが良くないのだろう。さっきから三回目だ。

大きいゴミっていうのは、そう、目の前にあるこの穴の空いた板も含まれているわけで、

時間まではあと30分ぐらい。


でも、こいつはまだゴミじゃない。
まだ今年のマッチョ当ては、役目を終えてはいない。


そんなわけで、さっきから我々マッチョ当て製作部隊総掛かりで、
必死におっさんの股間の穴めがけてボールを投げ続けているわけである。

「これ、」

がいん、

「最後やからって、」

がいん、

「穴ギリギリにしすぎたんちゃうか」

がいん。


「いや、」

がいん、

「一応、」

がいん、

「通るように作ってるはずやで」

がいん。


「しかしこんなん、」

がいん、

「3年も、」

がいん、

「ようやったもんやな」

がいん、がいん。


なんて言いながら、
次第に思い出話なんか始めながら、

あー、これが入ったら、最後の文化祭、終わってまうなあ。
なんて思いながら、

がいん、がいん。


あー、なんや、
思い出話も大したもんあれへんな、俺。
陸上部やってたけど、皆さぼってばっかやったし、

結局彼女もできへんかったし、

そんなに友達いっぱいおったわけでもないし、

誰かと殴り合いの喧嘩したとか一回もなかったし、

がいん、がいん、

それでも、これが、

この、みんなでおっさんの股間めがけて必死でボールを投げてる今が、

これが、たぶん俺の、青春時代みたいなもんなんやろうなあ。

がいん、がいん、

ああ、災難やなあ。これ、楽しいわ。
災難やなあ。

がいん、がいん、




がこっ。






「あ、」




「入った。」


「すげえ!」


「ほんまに入った!」


「これもう、アレや!」

「もう、アレやろ、胴上げや!」



なんつって、ボール入れたやつ、俺じゃなかってんけども、
なんでか知らんけど胴上げされてて、

楽しそうなんやけども良く見たら
「あー、なんで俺今、宙を舞ってんねやろ、災難やなあ。」
みたいな顔しとって、

上げてるほうは上げてるほうで、
皆、「なんで俺、こんなこと3年もやってもーた上に、胴上げなんかしてんねやろ、災難やなあ。」
みたいな顔しとって、

なんちゅーか、なんとも災難なことであるけれども、
いかんせん、たぶんそれが俺たちの、青春時代みたいなやつのようだったのだ。


誰に非があるわけではない。
ただただ、我々は、高校3年男子であったのか、といえば、そいつは否で、

誰に非があるわけではない。
ただただ、我々は、マッチョ当て製作部隊であったのだよ、諸君。

なんてなことを申しまして、

これにて今回の拙者のコラム、お開きとさせていただこうと思います。

皆さんも、今年はたぶん間に合わんであろうけれども、
来年の文化祭に、ひとつ、マッチョ当て製作に挑戦してみてはいかがかな。

あかんか。ごめんよ。