[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2013/06)

[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2013/06)


せっかくのコラム再開、その記念すべき第一回ということで、
さきほどでっちあげた架空のレスラー「ジャイアント・セワ」を紹介しますね。ええ、せっかくですから。

大手スーパーにおされて客足が遠退いて久しい、とある町の小さな商店街。
商店会長が大のプロレスファンだった為に、客寄せの秘策として、手作りのプロレスショーを催すことになります。
毎週日曜、商店街の中の広場に特設リングを設け、
八百屋の息子さんが、魚屋のお兄さんが、金物屋のおじさんが、
馴染みの面々がプロレス、というのはなかなかに面白く、当初はそれなりの話題になります。

しかし、いかんせん皆、素人。
平凡な身体能力で、動きは地味。
とりわけお笑い要素や、パフォーマンスに優れているわけでもなく、
新鮮さが失われるとすぐに飽きられてしまいます。

このままではいかん、ここは一目で強烈なインパクトのある、人気レスラーが必要だ、誰かいいやつはおらんか?
とのことで、白羽の矢がたったのが、
商店街の近くで介護の仕事をしている日米ハーフの32歳、中川氏。
身長は195cm、見た目は完全に外人。
おまけに学生時代はバスケ部であったため運動神経は抜群でありました。

それからの商店街プロレスショーは、強大な悪役レスラー中川氏こと『ジャイアント・セワ』に商店街の面々が立ち向かう、という構成で、大変な好評を博しました。

ジャイアント・セワの得意技は、巨大な体が宙を舞うドロップキックと
長身を生かした大迫力のジャンピングパイルドライバー「セワ・ダイナマイト」。
どちらも実際に強く当てなくても派手に見えるように工夫されております。
また、わざと片言風にしたしゃべり方と、「墓場マデ世話シテヤルゼ!!」という決めゼリフも人気のポイントでありました。


商店街プロレスの人気がピークになったある時、
ジャイアント・セワは試合前に毎回、商店街の時代遅れな点や魅力のなさをこきおろす内容のマイクパフォーマンスをするようになります。
口調こそいかにも悪役という感じの芝居がかったものでしたが、内容は実に的を得ており、毎回お客さんの共感や笑いを呼ぶ人気のパフォーマンスとなります。
また、時折見せる、スーパーで買ってきた野菜をリング上で食う、というパフォーマンスはまさに圧巻でありました。

これらは商店会サイドには大不評で、
「セワさん、あれはやめてくれんか。大勢のお客さんの前であんなことを言われてはかなわん。」という申し入れが何度もありましたが、セワは決してやめようとはせず、
セワ人気によって成り立っている商店街プロレス、それによってなんとかもっている商店街ですから、セワを降ろす訳にもいきません。

そうして、暫く大人気が続いた商店街プロレスショーですが、ジャイアント・セワの突然の引退によって幕を閉じることとなります。

実は、セワの代名詞とも言うべき必殺技「セワ・ダイナマイト」の際、相手の頭にかかる衝撃を最小限にし、かつ派手な音を出すために、
セワは毎回、膝を激しくマットに打ち付けていたのであり、
その無理がたたってついに膝を傷めてしまい、ドクターストップがかかったのでありました。

唯一の人気レスラーであったジャイアント・セワの代わりは到底見つからず、
もうプロレスショーは続けられまい、
となれば以前の閑散とした商店街に逆戻りであろう。我々の商店街もここまでか。
そう商店会の誰もが思いました。


しかしどうでしょう、プロレスショーがなくなって数ヶ月、
商店街はそれまでと変わらずとは言えぬまでも、
ここ数年では考えられない程の賑わいを見せておりました。

そこで、商店会の面々はようやく気づきます。
そうか、プロレスショーをしていれば確かに人は集まる。出店も儲かる。
しかし考えてみれば商店街の店自体の売り上げはそう変わってはおらなんだ。
どれだけ催し物で人を集めても、店自体が魅力的にならんことには、根本の解決にはならん。
そして、いかに人気レスラーがいたところで、所詮は素人のプロレスごっこである。皆そのうち飽きてしまうだろう。

思えば、セワさんの、あのマイクパフォーマンス。
あれだけ大勢の前で痛いとこを突かれては、皆、対策を考えずにはおれまい。
わしらは、あのパフォーマンスのおかげで、知らず知らず各々の店を良くする努力をしておったのではなかろうか。

そう言えば、わしはセワさんが皆の前で食っていた、スーパーで買ってきた野菜。あれは少しくたびれているものしか見たことがない。
わしもだ。おお、そうじゃわしもじゃ。

なんてことだ、わしらがばかだった。
わしらはなにも知らずに、あのパフォーマンスをいつもやめてくれと、

そしてセワさんは今ひとり膝を傷めてしまっておるというのか。


見舞いだ。皆、見舞いにいくぞ。




そうして、皆で家に押し掛け、口々に、今まですまなんだ、セワさんのおかげだ。などと言うと、

ジャイアント・セワは、
「いやあ、買いかぶりすぎですよ。あのほうが悪役らしいかなと思いまして。
ちょっと役に入り込みすぎましたな。」

ただそう言って笑うばかりでありました。


以上がジャイアント・セワのデビューから引退までのすべてであります。


よろしくどうぞ。