[コラム]山田好転(水、走る)の『元軍人でウルグアイ出身の性格が悪い陰陽師兼妖精コラム〜全然、怪しくないです〜』(2016/07)
《唄わない旅》
・前回のあらすじ
ある日、ひょんなことから肩にとまった妖精が僕にひょんなことから幼生期にひょんなことから要請し続けたヒョンナ養成所が痺れを切らしてひょんなことから送り込んできた妖星の楊世という王がひょんなことから寝込んで検査したら陽性だったらしくてひょんなことから水溶性の薬を探したけれど結局、ひょんなことから夭逝したんだって!
けどそれは物語と直接の因果関係は一切ないよ!
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・第三章
筆が走って未明から掻き毟ったテンションを引きずって気色の悪いことを書いてしまいましたが、元来の氷の眼をした元軍人に戻ります。
エアロプレインが降り立つは南国。
自然と口角をあげるためには思い出し笑いが有効。
書きながら頬がスフレのような軽さで躍動する。
右足、左足と順序良く交互に踏み出してナゾい長蛇の列を尻目に外へ出ると柵が行く手を阻む。
果敢に突破を試みるも警備員に止められてシャトルバスの説明を受ける。
あああ!あー、あ。あ、なる、なるほど!あなる!アナル!
ナゾかった長蛇の列はLCC特有の第二ターミナル(という名のほぼ倉庫)から第一ターミナル(という名のほぼ空港)へ我らを運び給え!と念ずる者たちの鎮魂歌であったか。失敬失敬。
最後尾に整列して仕切り直し、無事に真・那覇空港へ。
シャトルバスはすし詰め状態でジャーマニーおじさんの股間が密着していたことはなるべく早めに忘れたい。
迎えに来てくれているという幼馴染に電話で「空港に着いたさ〜」と言うもたしなめられる。
かれこれ5年ぶりの再会になるだろうか。
僕が山田であり続けたように彼もまた前田であり続けたようで二人の距離はあの頃のまま。五分ほど話したら、もう特に何も話すことがないので早速の無言。
幼馴染に逢いに行ったと書けばアイラブユーさえ言えないマイハートをお持ちの三分の一も伝わらない純情な感情をお持ちの読者の皆様は、感動の再会を思い浮かべて募る話があるように思うだろうけれど、僕らはいつもだいたい無言スタイルを採用。
無口な二人が仲良くなると思い出はいつの日も無言である。言葉などいらない関係性というわけでなく、単純に超絶無口なだけである。
そのまま事前に調査していたカレー屋へ直行。
待て待て。と読者様はお思いであろうが否、カレーはいつだってめくるめく神秘の世界をそこに構築している。
カレー激戦区大阪にてルーでルーを洗う抗争に身を投げた僕が見逃すはずなかろう。
ストイックかつスマートにスパイスのスパイを行うに相場が決まっている。軽度のサディストであるので5Sが巷で流行った時は、名を呼ばれた気がして振り返りすぎた首が鞭打ちになる程であったという説もあるが確証はかなり低い。
サブリミナルかつサブミットな側面も加えて7Sが巷で流行る頃には云々。
云々に次ぐ云々で辿り着いたのは『食堂インド』
沖縄は食堂文化が色濃く、その量の多さもまた本州へ轟いているがまさかカレーを出すことをも食堂とするとは格が違う。
戦慄しつつも頭の片隅に微かに、でも確かにある(逆じゃあかんかったんかな、、インド食堂の方が座りは良い気が、、)という一抹の疑問も消えるは、ずぁあああああああ!
あいてない!!
定休日のチェックは済ませたはず!なのに何故!教えて!おじいさん!教えて!おじいさん!教えてェェエエエエエ!
帰阪後に壮絶な腕時計焼けをしたことに気付くことになる右手首にふと目をやる。
あ、早過ぎた。まだオープンの時間になってないのか。
安堵が胸を撫で、呼吸が戻るまで辺りを散歩することにした。
知らない街を歩くのは良い。知らない人に出逢って話すのも良い。そのために来ているようなもの。
暑いから車で待ってる。と言った前田の微妙に沖縄色に染まったイントネーションは聞こえていないことにして
路地に次ぐ路地へ歩みを進めると、猫に次ぐ猫!老人に次ぐ老人!文化住宅に次ぐ文化住宅!
猫と老人の文化住宅王国に、無い休みをもぎ取り、わざわざ関空から来たのかと錯覚した。
がしかし、猫も老人もだいたいかわいいし文化住宅は生命活動におけるイマジネーションの最右翼である。
そこにあるドラマの絵コンテを脳内で書いていたら時間が来たので、むくむく膨れ上がったそれらを手で払ってインダハウス!
『食堂インド』と言うだけあって、インド料理もバリエーション豊かにメニューの上で目を躍らせていると前述の前田がポツリと
「おれ、店でカレー食べるの初めてかも。」
言い終わるが早いか、四足ある内の二足は宙に浮いていた。椅子の。僕の。
自分の両の足を床に立てて重力を使って危うくマンガ的に転げ落ちるのを未然に防いだ。
ゴホン!ラ〜ラ〜♩
よしっ!
育ってきた環境が違うから〜♪
好き嫌いは否めない〜♫
カレーが好きだったり、カレーを店で食べたことない奴が沖縄に移住したりするよね〜♪
ご静聴ありがとうございました。
無邪気に、サブジってなに?と聞く前田をテーブルの端に追いやって僕は僕の注文に心血を注いだ。
沖縄に来て最初に口にする物である。空港に着いてすぐ飲んだオリオンビールはなかったことにする。
ううむ。サグーも良いし、キーマもあり。逆にいきなりマトンでピアジャも良いな。けどバターチキンも捨てがたいな、、初めて来たからオーソドックスなものにすべきか。。
よし!決めた!サブジで!(山田)
じゃあ俺もサブジで!(前田)
いや、やっぱりチキンビンダルで!(山田)
サブジってなに?ビッ、ビンダル?ビンダルってなに?(前田)
すいませーん!(山田)
ご注文お伺いします(店員)
チキンサブジとチキンビンダルで!(山田)
サブジってなんですか?(前田)
ご注文繰り返します。チキンサブジとチキンビンダルですね。ご飯の量はいかがしましょう(店員)
小でいいです!(山田)
僕も小で。あとサブジってなんですか?(前田)
(厨房に向けて)オーダー通します!(店員)
(山田に向けて)なあ。サブジってなんなん?(前田)
秘密や!(山田)
ということで無事に注文を終えて待つ間も僕らの間は風が吹き過ぎていくばかり。
やがて、お待たせ!とチキンビンダルが僕に話しかけて来たのでそのまま体内へ取り込んだ。うむ!
金銭を支払い店を出ようとしたら《お口直しにどうぞ》と書いてあるカラフルな粒がレジ横にあり神々しく輝いていた。
もしや、、これが噂の、、
ひとつまみ手に取り口に放り込んだ瞬間に広がる多幸感。天国の実と呼ばれるフェンネルシードをついに摂取する日が来るとは。
南国旅はかなり幸先の良いものになった。
生命活動における快楽の上層にある食事で得た絶頂がさらにフェンネルシードによってエクスタシー、果てはオルガズムの境地にまで達しても
やはり我々は無言で車を走らせる。
昼過ぎから仕事のあった相棒(前田)を配慮して、もう一人で生きていけるからここで降ろせと言って降り立つは『沖縄輪業 前島2号館』
会話が出来るタイプのおじいにクロスバイクを借りたい旨を話す。そう。レンタルサイクルショップである。
ご予約はされてますかな?と眼鏡をくいっとしながら笑うので少し不安になった。
してないが、クロスバイクないしロードバイクはあるかという問いに
沈黙が長めに奏でられた。
、、、、、、、、、あります!
お茶目か。お茶目おじいが笑う。敬称を略せば、茶目爺だ。黒目がちであったが。黒目茶目爺。
夜は元相棒の家で寝ることになったので、新相棒ミッチェル(クロスバイク)と旅を続ける。
出会って10分と経たずに跨られるなんて羞恥の極み。しかし僕は、否、俺は跨ぐぞ!許せ。なんなら漕ぎもするぞ。良いか?よくなくても漕ぐぞ。良いか?と聞かれたら、良いとだけ言うのだ!フハハハハハ!
たまたま大阪での相棒と同じで赤い肌に黒い腕。変速は左が三段で右が七段のオーソドックスなクロス。
ロードは全て出荷済みであったので仕方なかったが、なんと老齢の新相棒であろうか。まあ、三日間ぐらいなら大丈夫か。
別れ際、おじいが何処までいくのか聞いてきたが
答えは風の中さ。とだけ言い放ち呆然と立ち竦むおじいを横目に、風を切って進む。五分ほど進んで、あっ。こっちちゃうわ。と五分戻って通称ゴーヤロードと呼ばれる国道58号線へ乗った。
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・第四章
ゴーヤロードをひたすら北上していた。その間ずっとハミングしていた。
唄わない旅とは言ったもののギターを運ぶ面倒さに辟易しただけであってアカペラで始まる旅の唄もある。
まだ街の様相を呈した那覇市から正義(第一章参照)に記された最初の目的地は北谷町!
意気揚々と新相棒バルデス(クロスバイク)を漕ぎ出したが強烈な熱視線。誰かこっちを見てやがる。
あいつか。
太陽だ。
僕の何をそんなに見る必要があるのか。
馬鹿野郎。貴様の手口はお見通しだ。色白がウリの僕を浅黒く焼いて帰阪後に会う人々に「焼けたなー!ゴールデンウイークどっか行ってたん?」と聞かせて辟易させる思い積りであろう。
笑止!
ゴールデンウイークは働き詰めであった!労働の鬼とは吾輩のことである!その台風が過ぎ去った後に頂戴したお休みである!
そして貴様への対策は万全である!!
それは旅に出る二週間前のこと。
水陸両用の靴を購入し、海での遊び方を完璧に網羅した僕が次に思い立ったのは日焼け対策である。
日焼け止めクリームは何がいいかな〜と調べていたら、そんなものはほぼ無意味という先人の書き置きがあった。その文字は細かく震えていて拷問の果てに苦しみ抜いて死を迎える予感のするものであった。
彼の肌に住まっていたメラニン色素達の死を無駄にしないため、調査の見直しをしたところ辿り着いたのがラッシュガード大佐である。
全盛期は327.43.112ぐらいの活躍はしたらしい。大打者である。
非常に強力な協力者を得た僕だったので、炎天下のもと強気に北上を繰り返すものの
並走するのは車ばかり。
車道に植えられて育ち過ぎてもはや林のようになった車線を分断する植物はさながらマラソンランナーを街頭応援するギャラリーのよう。
反対車線はほぼ見えないほど高く幅の密度もなかなかのもので、あたかもラガーマンの群れの如き。
想像してほしい。マラソンランナーを街頭応援するラガーマンの群れを。おぞましい。
まだ街っぽかった那覇市内を過ぎれば自転車はおろか歩いている人もいない。
これは、、、一体。。
さあ!ここでクイズの時間。何故、ゴーヤロードには自転車はおろか歩いている人もいないんでしょうか。
シンキングタイム!
1、陽射しが厳しいから
2、陽射しが厳しくて日傘を貫くから
3、陽射しが厳しくて日傘を貫くし、なんならラッシュガードも貫通して強烈な紫外線に肌を焼き尽くされるから
日頃ちょっとうっかりしてるところがある君のために三択だよ!どれかわかるかな〜?
というわけで、並走するのは車ばかりで身体が蒸発してこのまま現世から涅槃あたりまではトベそうだなあと、ぬるくなりすぎたポカリスエットを飲みながら思っていたら
蜃気楼のようにおぼろげではあるものの、標識に『トロピカルビーチ』が新登場!
あと6キロ。6キロ漕げばトロピカルビーチ。もちろん正義(第一章参照)にチェック済み。
トロピカルビーチ
立ち寄り度★★
星二つか。。けどトロピカルなんやろ?ラッシュガード大佐は早々に白旗あげてるし、一直線に北谷までいけると思ってたけれど人生は甘くないのが面白い。
冒頭あたりで「変化を恐れないのが信条。変わり続けることだけが変わらないことイズ座右の銘」と嘘八百を並べたが今回はそれに習ってルート変更。立ち寄り度が低くてもトロピカりたい。トロピカりに沖縄来とんねん。トロピカらせろ!
ということでビーチの駐車場に新相棒ファルケンボーグ(クロスバイク)を待たせて、いざ!
廃れ気味のロッカーに持ち物を入れてスピード社の競泳水着に着替えて
Let's トロピカル!
トロピカル!
トロピ、、あれ?
トロピカル!
あれ?トロッ、、え?
ト、、
この拙い文章で、おわかり頂けるだろうか。
目の前に広がる海の美しさに。
ビーチの名前すら置いていくエメラルドグリーンに。
立ち尽くすとはまさにこのこと。
事前の調査では立ち寄り度が星二つで、あんまり綺麗なビーチじゃないと聞いていたにも関わらず一面に広がる海の光。
しばらく放心していたが次の瞬間に、僕は走った。我を忘れて。
僕は走った。iPhoneをロッカーに仕舞い忘れてポケットに入っていないか確認して。
僕は走った。この時計、防水やったっけ?と思いながら
波間に足が触れた途端、その歴史の深さや広大さを伝う水の音や、踏み込めばその場から去ろうとする砂の奥ゆかしさ。
次の一歩で反対の足首まで浸かる。ようやく水温の低さに気付くも手遅れ。
三歩目で蹴り出して飛翔し、ゴーグルもつけずに両の手の指先から入水。
口は開いてないのに潮の味がする。目は閉じたまま海を見る。細胞が母性を受動してまるで母胎へ戻ったかのよう。
しばらくこのまま、時間を忘れてしまいたい。
けど呼吸が続かないので顔を上げる。濡れたツーブロックはさながらカッパのよう。
かきあげてオールバック星人と化し、ようやく客観的視点を取り戻せば周りに何人かの人間がいてそれぞれが穏やかに水に浸かっている。
生きている。
当たり前のことであるが、日常生活でそう感じ続けることが出来るほど豊かな感性は持ち合わせていない。
目が死んでる。とよく揶揄されるほど凍ってしまった視線は太陽とは真逆の地点にあって、それがまさかこんな形で邂逅するとは。
長く体感していたいので仰向けに海面で寝そべる。
水陸両用というだけで購入に至った靴が水に浮く。
日々の遊泳で培った泳力は必要なかった。これはかなり嬉しい誤算である。
これならいつまでだって水面で、純粋に一人の人間として存在し続けられる。
陽射しに焼かれて熱を持った身体が冷えていく。水温は低いが丁度いい。
かくして約一時間。ひたすら海を感じていたが、次に行かなくちゃと海を離れてラッシュガード大佐が乾くのを待ちがてら散歩をする。
小さな岬をぽつぽつ歩いたり立ち止まって海を眺めたりしていると、後ろから車椅子に乗ったおばあさんとそれを押す介護士さんがこちらを見て微笑んでいた。
こんなに知らない人と気軽に挨拶や、会話をするなんて新鮮だった。
僕は元来、超が三つ付くほどの人見知りでなるべくなら話さないでいたいし、扉の鍵は閉まっていてドアスコープから外の様子を見ている。
それが良いとか悪いとかは別の話で、そうである自分がそうでない自分に気付いた瞬間であった。
今回の旅、決めて良かった。
純粋な想いを胸にまた新相棒ペドラザ(クロスバイク)に跨る。
余談であるが新相棒の名前はコロコロ変わる。
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◆自己紹介
山田好転(Yamada Koooooten)
大阪の『水、走る』というバンドのフロンマンで、ソロ名義での弾き語り活動もしています。元軍人でウルグアイ出身の性格が悪い陰陽師兼妖精です。全然、怪しくないです。
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