[コラム]山田好転(水、走る)の『元軍人でウルグアイ出身の性格が悪い陰陽師兼妖精コラム〜全然、怪しくないです〜』(2016/05)

[コラム]山田好転(水、走る)の『元軍人でウルグアイ出身の性格が悪い陰陽師兼妖精コラム〜全然、怪しくないです〜』(2016/05)


《北インド会社専務補佐代理》

あれから一年が経った。

この書き出しだとつまり、その「あれ」について書くことになってしまうのだけれども

それにはいくつか説明が必要なので

これから「それ」をするために文章を書くことにする。

あれは僕が小学生の頃のこと

この場合が指す「あれ」は冒頭部分の一年前の「あれ」ではなくその下の「それ」を成し遂げるために必要な文章における「あれ」であります。

僕が小学校高学年の頃、区で最強のソフトボールチームのキャプテンだった僕はスポーツテストにおけるソフトボール投げで歴代一位の記録を残してよく知らないやつからも「山田は肩が強い」という噂でもちきりだった。

肩が強いというのはつまりボールを遠くに投げることが出来たり、速い球を投げることが出来たりすることに対しての比喩であるけれど

確かに肩は強かった。

あぁ、僕は人より肩が強いんだ。と漠然としていて無意味な自信がそうさせたのか肩で風を切って歩いていた。

肩で風を切るというのはつまり偉そうに威張ってということに対しての比喩であって

実際に肩に刃があって風というある意味では実体のないものを、プツン、プツンと器用に切りながら右足と左足を交互に前に出して移動していたわけではない。

なんかちょっとこの車両、加齢臭きつくないですか?

あぁ、すいません。今、電車の中にいてジム帰り自分の汗は完全に流したので必要以上に敏感になっていま

あ、あのおじいさんの群れから匂うな。。

あぁ、すいません。今、乗ってる車両におじいさんの群れを発見したので原因が究明されたわけです。

えーっと、なんの話でしたっけ?

なんか最近、集中力がなくなってきてて

というわけではないんですが、どうでもいいことを話してると話がだんだんあるようでない、ないようである言わば空気のようになってしまって

いや、どうでもいいってあなたそんな、このコラムがどうでもいいって言ってるわけじゃございませんのよ。勘違いなさらないで。

ちょっとスクロールしますね。

ああ、そう。肩が強くて風を切ってって話でしたね。

でまあ、そんな感じなんですけど通っていた、というよりは住んでる地区がそうなので通わざるを得なかった小学校にある日突然、何らかのスポーツ選手の群れが訪れたのでした。

その区で最強のソフトボールチームのキャプテンだった僕的には初芝とかジョニーとか小宮山とか定詰とか諸積とかが来て欲しかったんですが何の因果か何の教訓か、パキスタンのハンドボール選手の群れが訪れたのです。

突然、体育館に集められて全校生徒の眼前に突如として目の前に現れた異国の人間の登場が急に目を疑うような出会い頭で

一体どんな化学反応が起きると理科の先生は思ったのだろう。

この時、小学校の先生は全教科教えるということをないがしろにして話を進めねばなるまい。

そのマッドサイエンティストの目論見に反して我々はもうだんまりを決め込んでいた。

というのも相手側の誰一人として日本語が話せない。

一体、誰のどういうミスが招いた緊急事態なのであろうか。

そのまま体育館は集まった人間の熱で蒸してくる。汗をかきはじめた我々をよそに突然、向こうのグループの何人かが近付いてきた。

中にははじめて黒人を見た生徒もいたようでそれらの眼に浮かぶのは恐怖や不安、悲しみに諦めであり喜びではなかったはずだ。

突如、歩み寄る一団と後ずさる我々の一進一退の攻防戦。

突破口を開けたのは四年二組の担任、九十九先生だった。九十九は六年生の我々が四年生の時に四組の担任をしていたので知ってる。

僕は四年の時は二組だったので受け持ちではないが三年の時の友達が四年になって四組だったのでヤバい話をいろいろ聞いてる。

自己紹介はもちろん「きゅうじゅうきゅうと書いて九十九です。」からはじまり鼻をかんだティッシュを「まだ使える」と小声で呟きポケットにしまう。

その一枚のティッシュを99回使ったら次の一枚にいけるという都市伝説を持つほどである。

その九十九先生が「うぇるか〜む!」と完全に日本語で両手を広げて挨拶したが通じていないようで、今度は向こうが硬直してしまった。

その光景を黙って見ていたのだが、なにがしかのきっかけで我々は打ち解け、持ち物へのサインをねだるガキが急増し、僕も一筆書いてもらった。

しかし読める可能性のない文字の形に震えていたら九十九先生が「この人、日本で言うたらイチローやで」といつの間にか横に来て僕に言った。

僕としては初芝とかジョニーとか小宮山とか定詰とか諸積とかがよかったんですがイチローかあ。と納得してその日は帰宅した。

ということを思い出した今日はジムに通い出してから一年が経っていた。


◆自己紹介
山田好転(Yamada Koooooten)
大阪の『水、走る』というバンドのフロンマンで、ソロ名義での弾き語り活動もしています。元軍人でウルグアイ出身の性格が悪い陰陽師兼妖精です。全然、怪しくないです。
◆Twitter
koooooten(個人)
mizuhashiru(バンド)


◆HP
mizuhashiru.com