[コラム]BLENDY MOTHER FATHER / RED EARTH 寺澤ちゃんの
「Sank you Fantasy」(2014/11)



僕は寺澤ちゃん。8歳。
今僕がいるのは2024年11月。皆より10年先にいるんだ。
待ってた?いつもは未来の事を教えているんだけど、今日は寺澤ちゃんが昔に書いた物語で未発表のものを教えてあげようと思って。怒られちゃうかもだけど。
どうして子供の寺澤ちゃんが未来にいるかって?
それは聞かない約束でしょ。

そろそろ夏が近づいてきたので、皆様ご存知かとは思いますが探偵助手をしている私、すう子が体験した恐ろしい話でも今日はお聞かせしようかと思っています。あれはまだ八月に入る少し前、確か七月の下旬頃だったと思います。
「ちょ、君きみ。そんなに音を立てちゃだめだ」ある一軒家の塀を乗り越えようと必死にジタバタしているのを見て、男は小声で言った。なら手を貸してくれてもいいのに。
「分かってますよ、でも上れないんだもん」なんとかのぼる事が出来たが手も痛いし足もどこかにぶつけた。こんな事になったのも全部先生のせいだ。探偵の小西は奇妙な依頼しか受けない。そして面倒な事は大抵、私にやらせて自分は事務所の掃除ばかりしている。小西は掃除魔だ。だけどいつも知らない間に依頼を解決しているので頭が良いのはきっとそうなんだとは思うんだけど、どうも私としては納得がいかない事ばかりだ。
今日の依頼も私が用事を済ませる為、大学に行っている間に先生が勝手に受けた依頼だ。いや、私は助手だから依頼を受けるも受けないのも先生の勝手だけどさ。この男、つまり自分だけ先に塀を乗り越えて私を手伝いもしないで偉そうにしている男、唐沢という名の男、こいつが空き巣をしてみたいという依頼をしてきたわけだ。私は事務所に戻ったところでそれを聞かされて、次の日、つまり今日この見ず知らずの唐沢と空き巣に入っている。
一見すると唐沢は普通に働いてそうだし、それなりにモテるだろうし、どうしてこんな事がしたくなったのかは全くもって想像もつかないし、意味が分からないが。とにかく私はこの家の住所をメールで知らされて、唐沢とここで待ち合わせていきなり空き巣に入らなければならないという命令をされた訳で、こんな事がしたくて探偵事務所で働いている訳じゃない事は皆さんには言っておこう。
「さぁ、こっちだ。ここの鍵がいつも空いているから」どうして知っているのだろう?きっとこの家は先生の知り合いの家で今日こうやって空き巣に入られる事は了承済みなはずだきっと。いやそうでなければ私が困る。本当に空き巣をして捕まってしまうのなんてまっぴら御免だ。きっと事前に先生から聞いていたんだろう。
「私も中に入るんですか?」出来ればこの庭で終わるのを待っていたかった。
「そうに決まってるじゃないか。ここにいたらそれこそ怪しまれる。さっ早く中に入ろう」
 中に入るともちろん部屋は真っ暗だった。そりゃそうだ、もう夜中の一時を過ぎている。もちろんこの家には今日誰もいないだろうが、知らない人の家にこっそり入るってだけで緊張してきた。暑さのせいか緊張のせいか額に汗がにじんできた。
「静かにな。よし二階へ行くぞ」えー二階??そう声に出したかったが仕方なく黙ってついていく事にした。足音を消そうと歩く事に慣れていないせいか、どうやって歩いてもギィギィと床が鳴ってしまい、その度に唐沢はこちらを見て睨んだ。だから私はこんなところについて来たくなかったんだって、と言ってやりたいが声が出せない状態だったので口を尖らせるだけ尖らせてやった。ようやく二階に着くと唐沢は迷いなく一つの扉を開けた。いきなりそんな行動を起こすから心臓が縮み上がった。唐沢はここにいろと手で合図し、一人中に入っていった。扉は開いたままで、中の様子が月明かりでうっすらと見えた。
えっ? 女の子?せいぜい小学二、三年生がベッドで眠っているのが見えた。
ここ人いないんじゃないの?他にもいるのだろうか?誰もいないと思い込んでいたせいで冷静でいられたのだが、誰かいると分かった途端に心臓が爆発するように音を立てて、背中に冷たい汗が流れた。早くここから出なくちゃ。そう思ったものの、唐沢が眠る女の子の枕元にかがんで寝顔を覗きこんでいる。
「唐沢さん、早く行きましょう」息を少し吐くのに混ぜるくらいの小声で言った。唐沢はこちらを向いてうなずいた。そして肩から掛けていたバックから何かを取り出して女の子の枕元に置いた。なんだろう?暗くてよく見えない。目を薄めじっくり見た。が、そこで唐沢がこっちに出てきた。扉をゆっくり閉める時にそれがなんであるか分かった。クマのぬいぐるみだった。どういう事だろう?また先生私に隠し事していたな、と思ったが、それよりも何よりも早くここから出たかった。唐沢が扉を閉めると同時に階段を下り始めた。
「だれっ?誰かいるの?あっぬいぐるみだ。もしかしてパパいるの?どこ?ねぇ、一人は嫌だよ。早くお母さんと仲直りして」女の子の声が聞こえた。やばい。他の住人がいたら起きてしまう。急いで階段を二人は下り、庭に出て入る時の十分の一くらいの早さ、つまり十秒もかからないで塀を乗り越え二人は走った。唐沢が先で、その後を私が追った。十分くらいは走っていたかもしれない。
「ちょっと。か、唐沢さん、休みましょう。私もう走れないです」息が苦しい。
「若いのに、体力ないんだね」そう言った唐沢はすう子より激しく肩を揺らしている。
「はー、ほんと怖かったー」なんだかそう言うと安心が広がっておかしくなってきて笑ってしまった。
「もう、ほんとに」唐沢もそう言いながら笑っていた。次第に声を立ててしばらく二人は笑っていた。
 しばらく道にへたり込んで笑っていたが、コンビニに行って唐沢がアイスクリームを買ってきてくれた。公園のベンチに二人座り、アイスを食べた。ちなみに私は甘いものが大好物だ。
「もうっ空き巣がしたいだなんて嘘だったんですね。あの子は知り合いですか?てかもしかしてお子さんですか?ぬいぐるみ上げたかったんでしょ?まぁあんまりこんな事聞いちゃダメなのかもしれませんけど」しかしこの高級バニラはおいしい。
「あぁすまないね。小西さんまで騙す事になっちゃいましたけど。実はあの子は私の子供でね、別居を始めた時は私アルコール依存症でね、子供とは会えない事になってるんだ。今はすっかり呑まなくなったけどね。ユキって名前なんだけどね、あの子の誕生日が明日なんだ。嫁はホステスをしているから朝にならないと帰って来ないし、小西さんに空き巣のやり方を教わったんだ。でも君は空き巣とかの事を心得ているから一緒に連れて行くと役に立ちますよ、って小西さんが言ってたけど、私も完全に騙されたね。君全然空き巣とかした事ないでしょ?」
「ないですよ。当たり前ですよ。ほっんとわたしも先生の考えてる事はよく分からないんです」
「まぁきっと探偵の勉強って事なんじゃないかな?」
「そうだったらいいんですけど」
「まぁ、それで私が去年プレゼントを送っても嫁に送り返されてね、今年はどうしても渡したかったんだ。寝顔だけど久しぶりにユキを見れてよかったよ。大きくなっていたな。ありがとうね」
「どういたしまして」私はなんにもしてないけど。と喉まで出かかったけど唐沢さんの嬉しそうな顔を見ていたら言うのを止めた。その日はタクシーで帰って布団に入るなり眠ってしまった。

「先生知ってたんでしょ?知らないふりして空き巣の仕方とか言って教えてお金もらったんでしょ」次の日事務所に着くなり小西に聞いた。
「ん?なんの事だい?」そう言った先生の顔半分は笑っていた。
「とぼけたって無駄ですよ。知らなかったら私を連れていかせるはずないですもん。知らない人の家に入ったら捕まりますからね。あの家には子供しかいない事知ってたんでしょ?奥さんはホステスしているらしいから朝まで子供一人だから私を行かせたんでしょ?どうせ私が怖がるだろうとか思って、からかって行かせたんでしょ?」
「まぁ、そんなにカッカしないでくれよ。ああいう事は探偵する上で良い経験になるんだよ。ものすごく緊張しただろ?日常で体験出来ない事も経験しておかないと良い探偵になれないぞ」
「まぁ、そうかもしれないですけど、、、唐沢さんだっていくら昔の自分の家だからって今は入っちゃだめなのはダメなんですから、やっぱりひどいです。ほっんっとに怖かったんですから」
「でも、残念だったよね。唐沢さんは娘さんにプレゼントを渡したかったんだろうに」
「えっ?枕元にぬいぐるみ置いてましたよ?ユキちゃん眠ってましたけど」
「ん?どういう事だ?」そう言って小西は片眉を上げた。
「どうもこうもないですよ。ユキちゃんがベッドで眠ってたから枕元にぬいぐるみを置いて帰ってきただけですよ」
「そりゃおかしい」そう言って黙り込んでしまった。
「何がおかしいんですか?教えて下さい」
「いや、聞かない方が良いよきっと」
「もう、そんなの通用しないですから。早く教えて下さい」
「あの日ちょうど、君達があの家に入るだろう時間に娘さん寂しくなったのか、母親のいるとことに行こうとしたんだろうね、交通事故に合って意識不明なんだ。医者の話じゃ回復して意識が戻る見込みは高いそうだがね。今唐沢さんも病院に行っているようだよ」
「えっじゃあ、あの眠ってた子は誰なんでしょう?」
「それは私でもわかりかねるな」
「じゃあ、おばけ。な訳ないですよねー。あははー意識不明で亡くなってはないんでしょ?ならおばけじゃないや。えっ、えっ、もうっいやだなー先生私を怖がらそうとしてそんな嘘ついてるんじゃないですか?」
「いや、これが本当なんだ」
「うそ、、、」
「しかしこれで意識さえ戻れば唐沢さんもまた娘さんに会えるようになるだろうね。事故の原因が原因だからな。きっと一人で寂しかったんだろうに」
「きっと戻りますよきっと」自信はないがそう言った。どうしてだか、背中を冷たい汗が流れた。

END


2014年現在 寺澤 尚史
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ロックバンドBLENDY MOTHER FATHERのvo/gtと
フォークパーティRED EARTH http://www3.hp-ez.com/hp/red-earth/page4 のvo/agtをしている。