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[コラム] モケーレムベンベ井澤聖一の「豆腐のかど」(2013/01)

賀正。

以前のがわりかし好評だったので、今回はちょっといい話シリーズ第二段。宜しくおつきあいのほど。

昨今ではさして珍しくもないようですが、うちは所謂父子家庭というやつでして、
おかんは俺が小三ぐらいの頃に出ていってもーたんですね。

そんでも、うちで一番おかんと仲の良かった俺、皆に内緒で年に数度ぐらい会ったりはしておったわけですが、
いつだっけか、ちょっと訳ありだったようで、おかんが実家の熊本に帰ってしもて。
それからは何年も会わず、なんとなく連絡も少なくなり、すっかり疎遠になってしまいます。

月日は流れ、22の時だっけか、急におかんからの電話。
曰く、ばあちゃんが癌で入院をしており、余命いくばくもない。最後にって本人に言うわけではないけれども、何か食べたいものはないかと聞くと、「メロンが食べたい」とのことであった。かねてよりハイカラであったばあちゃんらしいことである。
おそらく最後の贅沢になるであろうそのメロン、孫が送ってくれたということであればより一層嬉しかろうと思うので、ひとつ送ってはくれまいか。
という内容であった。

そりゃ勿論。送らいでか。
急ぎ手配したのだけども、いや、メロン送って済ますことではあるまい。どうにか時間を作って、見舞いに行こう。
ということで、数日後。バイトやら諸々の予定をうまいことやって、どうにか一泊二日。
おかんの故郷、熊本への新幹線に乗り込んだのであった。

数年ぶりのおかん。おかんからすれば数年ぶりの息子。
熊本に着いたのが夜だったので、見舞いは明日。折角だから何か熊本の美味いものを食って帰ろう、と気合いの入ったおかん。
ばあちゃんの状況が状況なので気が引けもしたが、
今すぐ見舞いに行けるわけでもなし。久々に会う息子にテンション上がっとるおかんが嬉しくもあり。
結局何やら素敵なお店で、馬刺しやら、馬肉のしゃぶしゃぶやら、なんやらなんやら、いろんなものをご馳走になった。何から何まで、そらもう美味であった。

おじいちゃんには内緒ね。なんてあたりは相変わらずなおかんである。

翌朝。おかんの実家にて。

起きると台所で朝食の支度をしているおかん。
言葉にすれば当たり前のようなその光景は、実に十数年ぶり。
ごはん、ソーセージとスクランブルエッグ、刻んで炒めたじゃがいも、大根の味噌汁。
ごめんね、朝早いから、お店開いてないから、こんなのだけど。お昼にまた美味しいもの食べに行こうね。
と、おかん。

そんなん別にえーのに。いただきます。
あー、なつかしいな。おかんの料理こんな感じやったな。てな感じで食べていて、
味噌汁を一口飲んで、箸が止まった。
箸がっちゅうか、まばたきとか息とか思考とか、なんかもう、色々止まった。
十数年前と、味、全く変わっとらんの。寸分違わず。ほんと間違いなく寸分も違わず。

これ、なにがすごいって、
十数年の間、軽く10000回以上は違うもん食ってきた俺が、「寸分違わず同じ味だ」なんて、はたしてわかるものかね?
わかるものなんですよ、これが。

気づけば全部平らげておりました。せっかく飲んだ味噌汁が目から出てまわんよう、必死でありました。

昼前、ばあちゃんの見舞いへ。
ここについては多くは語らぬけれども、癌て、あれは、ほんとやれんね。皆、検診とか、受けよね。

昼過ぎ。帰りの電車の前にもう少し熊本の美味いものを食って行きなさい。と依然気合いの入ったおかん。
さっきの見舞いのあとであるから、なかなかそんな気にはなれんだのやけど、思うに、ばあちゃんがいつ亡くなるかしれんという毎日は、おかんもきつかったのやと思う。
だから久々の息子との食事は、たぶん楽しかったのだ。

昼食は、ちょっと普段の感じではない焼肉屋さん。
和牛、黒豚、天草大王(ごっつうまい地鶏)等々、
いろんなものをご馳走になった。
何から何まで、そらもう美味であった。そらぁもう美味であった。

最後に駅まで送ってくれて、帰り際、おかんが訊ねるに、
「熊本って美味しいものいっぱいあるでしょう。
昨日と今日食べた中で何が一番美味しかった?」

考える時間はいらなかった。
真っ先に浮かんだのは、

皆さんおわかりですね?

「そらもう馬刺しですな。あの、この辺り特有の甘い醤油、相性が最高であったよ。あらぁ全国的に売り出すべきですよ、いや全く。」

などと申しまして、えー、親子というのは、なんとも、
幾つになっても照れくさいものでございます。

大阪に帰ってしばらく。
ばあちゃんが亡くなったとの報せ。
そういや、ばあちゃんって、おかんにとったら、お母さんなのなあ。なんて当たり前のことを考えたりして、
なんとなく大根の味噌汁が食べたくなって。

うちにあった「ほんだし」と「マルコメみそ」で適当に作ってみたらば、
寸分違わずとは言えぬまでも、八割がた同じ味になってしもたのであって、
おふくろの味というのは、二割の愛情と八割がたの適当さかもしらんなあ。なんて思った次第であったよ。

だから、世のお母さん方、けっこう適当でかまわんから、なるべくお子さんには手料理を作ってやると良いと思いますのやわ、俺。

しからばこの辺で。
本年もどうぞ宜しく。