[コラム]藤井えい子の「鬼の居ぬ間に箸休め」(2017/03)


「三月二十一日」




陽の暮れた知らない町で、小さな駅を探しながら、
交わる煩わしさよりも、寄り添う心強さを、多くの人は選ぶのだろうな と思った。



先刻外したブラジャーを、なんとなくその場でバッグに仕舞って、それきりであることを不意に思い出した。
特に目的もないのに入った、繁華街のコンビニで、せっかくだからとお手洗いで用を済ませている間のことだった。

私は、なんでもかんでも面倒臭がって、考えもなしに蓋をしたり、鍵をかけたり、沖に流したりしてしまう。

バッグの隅に押し込まれたブラジャー。
いつも、ほんの一言が言えない。

しようがなくて、ふらふらと酒を飲み歩いてはお猪口を乾かす、しようのない私。




決して、口に出してはいけない言葉というものがあって、それをどうにか口にしなくて済むように、歌を歌っているような気がする。


言葉と知れば ひとりでいられない
私を癒す呪文を探している
言葉を知れば ひとりでいられない
あなたを許す歌が歌えたなら