[コラム]いおかゆうみの「ちぐはぐな日々。」(2014/04)


気分転換にベランダへ出てみると風が優しかった。伸びをして見上げた夜空には月が浮かんでた。昔のことを思い出す。自分も周りの人も景色も随分と変わってしまった。良いも悪いも変わってしまった。それやのに相も変わらずわからんわからん言うてる。ずっと同じことで悩んで同じことを考えてる。

こんな23歳になるなんて思ってなかった、なんてこともない。



小さい頃のうちはほっとけば勉強するような子やった。お母さんがくれる花丸がうれしかった。土砂降りの中、保育所に向かう途中、お母さんが漕ぐ自転車の後ろで早く大人になりたいと願った。熱が出てもしんどくてもなかなか言われへんかった。


うちはいつだって強くありたかった。



小学校高学年になると女の子たちはグループを作る。

大きなグループが二つあったんやけど、別にどっちにおってもよかったし、どっちにおらんくてもよかったから、こっちに来いと引っ張られたり、あっちに行けと突き飛ばされたり。
昨日まで一緒に遊んでた子が次の日には一緒に遊ばんくなるような日常。
薄い手紙を数えて安心したり、零れてしまった自分の言葉を反省したり、そんな日々に疲れていったうちは授業中も休み時間でさえも一人で空を見上げるようになった。みんなが手を繋ぎながら教室を移動する中、うちは誰とも繋がることなく廊下を歩いた。


家に帰っても一人で留守番。
親が帰ってくるのは夜遅く。

そんな状況やったから誰にも何にも言えんくて、吐き出す場所は赤い日記帳、心の全て。鍵をかけた。日記帳にも、それをしまう学習机の引き出しにも。なんやったら、もしも見られた時のために、全部ローマ字で書いてた、読みにくいように。

自分の気持ちが言葉になって形になる、誰かに伝わることがなくとも。自分と自分の気持ちが存在している、というその事実だけが当時のうちを救ってた。この前読み返したらこっそり「うたを作ってうたってみたい」って書いてた。楽器なんて一つもできへんかったくせに。


強くありたいと願う一方で、いつだって、弱くなれる場所を探してた。

高校生になって恋人ができて、うちは自分の不安定さや脆さや弱さをその人だけに押し付けた。嗚咽も涙も鼻水も受け止めてくれる人がいる安心感に、酔って酔って酔い続けた。彼がいるだけの世界、それでよかった、それだけがあれば。

彼が言った「ゆうみの歌ってる声いいと思うで。歌ったら?」の一言で、うちの歌が始まった、19歳やった。

歌えば歌うほど、自分の世界の狭さを知り、自分の心の弱さに気付く。
見たことのないものを見たいと思った。会ったことのない人に会いたいと思った。
靴紐さえ自分で結べんかった甘ったれたうちは、ひとりで歌を歌っていこうと、優しい恋人とお別れした。

たくさん泣いた、空を見る度に泣いた、
悲しくて、寂しくて、虚しくて、自分を愛することもできんくて、生きてる心地がせんかった。それやのに歌を歌ってる時は、歌を作ってる時は、自分を抱きしめてあげたい気持ちでいっぱいやった。


うちの弱さや強がりや愛を、誰かが受け止めてくれている。涙してくれたり、不安を溶かしてくれたり、優しく微笑んだりしてくれている。

誰にも伝わらんかった気持ちが、今は伝わる。

歌える場所があって、うたが形になって、
うちはひとりであなたの街までいける。

こんなに幸せなことってない。
どこにもない。


もうすぐ、レコーディング。

あなたに聴いてほしい歌。