[コラム]いおかゆうみの「ちぐはぐな日々。」(2014/02)


実家に帰ると、大好きだった愛猫がうちを見ると威嚇するようになりました。
先日も帰ったんですが、相変わらずで、しまいには飛びかかってきたけれど、
心の中で何度も「君がそんな風でも愛しますよ。」と唱えると、自然と落ち着いてくれました。愛は伝わる。

猫と私の話です。

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保育所に通ってる頃、毎週日曜日は友だちの家へ電話して、
「なーなー、きょー、あそぼー」って言うてたんやけども、だーれもつかまらん日もある。そんな日はミィちゃんと遊ぶ。

住んでた文化住宅の周りにはたくさん野良猫がおった。その中でも一番仲良しやったのが、ミィちゃんやった。
細くて白くて、ところどころに薄茶色の模様がある。瞳は綺麗な薄緑色。他の猫よりか細くて高い声、だから、ミィちゃんって名前にした。

「ミィちゃん、どこおるんー?」と文化住宅の階段の下で叫んだら、ちゃんと出てくる。いつもどこにおんねんって笑いながら、一緒に遊んでた。お母さんの前では、ミィちゃんと仲良くないフリをする。ミィちゃんにはノミがいっぱいついてるからお母さんは汚いからあかんっていつも言うてた。けどうちはミィちゃんと遊ぶのんがめっちゃ好きやった。ミィちゃんと遊ぶために猫じゃらしをいっぱい見つけてきて、家の前の道路で走りまわってた。

時計なんて持ってへんから聞こえてくるチャイムと空の色で帰る時間が迫ってくるのがわかる。その頃のうちの門限は夕方五時。

「ミィちゃん、またなあ。ばいばいやでー」って言うたら、ミィちゃんは階段の下で寂しそうにこっちを見てる。ミィちゃんは階段をのぼってこぉへん。

保育所からの帰り道、お母さんが漕ぐ自転車の後ろ、大声でうたをうたう。
「はい、到着―!」ってお母さんが言うたと思ったら、ミィちゃんがどっかからやってきた。
ミィちゃんはうちが保育所から帰ってくる時間になったら「おかえり」を言うてくれるようになった。

自転車からポンッと降りて、「ミィちゃん!ただいまっ!」って言ううち。
「ゆうみ!汚いからあかんで!家帰ったらちゃーんと手ぇ洗いや!」って言うお母さん。
そんな毎日やった。

いつもみたいにミィちゃんと遊んでたら、5時になった。お家へ帰ろうと思って
「ミィちゃん、またなあ。」で階段をのぼる。ミィちゃんもいつも通り階段の下で寂しそうにこっちを見てる。うちもその日はなぜかめっちゃ寂しくて、いつもなら振り返らへんのに、何回も振り返ってた。何回も「ばいばあい」って言うて、手を振った。
そしたらミィちゃん、ずっと階段のぼってこぉへんかったのに、のぼってきた。
うちのちっちゃい心臓が早くなった。
「あ、あかん。このままミィちゃんが来たら、おうちに住んでしまう。」って思った。
「そしたら、お母さんにもお父さんにもおこられる。ミィちゃんもおこられる。」って思った。

「ミィちゃん、あかんねん。ばいばいせなあかんねんで。」って言うてもミィちゃんは階段をのぼってきた。「ミィちゃん、言うこときかなあかんで。ミィちゃん、かぞくにできへんから、ばいばいやで」って言うた瞬間、ミィちゃんはめっちゃ早く階段のぼってきた。
うちはびっくりして逃げ出して、急いで家に入った。

「ゆうみおかえり!どうしたん!」ってお母さんの声に、
「ミィちゃんがいうこときいてくれへんねん、ばいばいって言うたのにな、いつもみたいにばいばいしてくれへんかってな、おいかけてきてん!」

「ゆうみともっと遊びたかったんやなあ」ってお父さんが笑ってた。

悪いことしたって思った。ミィちゃん、家族がおらんから寂しくて、うちしかおらんのに絶対いつもばいばいせなあかんくて、うちと遊ぶ度にばいばいのこと考えたら寂しい気持ちがいっぱいになるんや。ミィちゃんの目を思い出すとこわかった。「もう絶対離さへん」って目をしてた。これがきっかけでミィちゃんがこわくなって、しまいには猫がこわくなった。

それからミィちゃんはうちの家の窓を勝手に開けて入ってくるようになってしまった。
食べ物を勝手に食べていく。台所を荒らしていく。お母さんやお父さんが追い払う。小学校から帰ってきた時にミィちゃんおったら家に近寄れずに公園で時間をつぶす。それでもミィちゃんはうちに気付いたら、いつもの甘えた声でミャーと鳴いてきて、けどうちは逃げてしまう。

ミィちゃんは、うちのことを憎んでるやろうか。



いつの間にか、猫がこわくなくなって、
今は街の中で猫を見つけるだけでとてもうれしい。

ミィちゃんと似た猫を見ると、胸の奥が重くて痛い。

勝手でごめんね、と何回謝ってもミィちゃんにはきっともう会えへん。