[コラム]いおかゆうみの「ちぐはぐな日々。」(2013/09)


保育所に行ってた頃、毎朝毎朝、家を出る前にお母さんはうちにちゅうをしてきた。真っ赤な口紅の匂いがしてた。お母さんがお母さんじゃない時の匂い、うちはその匂いが苦手やった。

毎週日曜日はダイエーへ。
お母さんはは中島みゆきと山口百恵をかけながら、化粧をしてた。何回も入れ替わるカセットテープ。待ってる間、本を読みながら、はよ終わらんかなあ、ってぼんやりしてるうち。窓際で化粧をしてるお母さんに、日曜日の朝の光が降り注ぐ、今でもちゃんと覚えてる光景。

真っ赤な口紅を塗ったお母さんは、やっぱり家を出る前にちゅうをしてくる。けど、日曜日のちゅうは嬉しかった。

一通りお買い物が終わったら、自販機でネクターを飲む。お母さんは口紅がとれへんように飲むから、まるで、ひょっとこ。大人になったらみんなこんな顔して飲むんかって思ってた。

今でもずっと、ママの味はミルキーじゃなくてネクターのままで、それやのにダイエーはなくなってしまった。


先日実家に帰ったとき、家族三人で外食にいった。
お父さんが運転してお母さんが助手席、お母さんの後ろの席にうちが座って、素晴らしき家族団欒。
いつもみたいに後ろからお母さんをこしょばしたり、お母さんの目を両手で隠したりしてたら、
「あんた!この手なに!」って言うからびっくりしたら、
「なんて、可愛い手なん!もう!」って笑いながらうちの手を握ったりさすったりしてて、当たり前のことやけど、この人の前ではいつまでも子どもなんやなあ、と、あくびをするフリをした。

その次の日に自宅へ戻ったんやけど、その時にパーカーを忘れてきてしまって、そしたらお母さん、なんと、難波までパーカーを持ってきてくれた。実家がある寝屋川を通る電車は、京阪電車だけやから、つまり、乗り換えせなあかんのに、なんと、難波まで持ってきてくれた。


お昼ご飯を一緒に食べた。


すごく驚いたこと、お母さん、難波に来たの初めてやった。うちの胸の奥がギューってなった。お母さんは行ったことがない場所、経験してないことが人より少し多い。うちが生きてる間、この人にどんだけの感動を与えられるか、と、思ったら、オムライスを味わう余裕なんてどこにあるねん。

お母さんがパーカーが入ってる鞄を渡してくれた。
うちが持ち歩いてる鞄は結構大きいのやったから、パーカーだけ渡して鞄を返そうとしたら、スーパー行くときに使いなさい、と、言うので持って帰った。



お母さん、ありがとう。気をつけて帰るんやで。またね。


うちは自宅に帰ってお母さんがくれた鞄の中からパーカーを取り出しタンスに直した。その鞄の中には小さいポケットが一個ついてて、なんとなく開けてみたら千円札が一枚はいってた。

うお、きた。これめっちゃうれしい。
いや、待てよ。お母さんのことやからここに入れてるの忘れて、そのままなんちゃうん。

相変わらずやなあ、可愛いなあ。


と、思ってそのままにしてたら、

後日お母さんから「見つけた?」とだけメールがきた。
なんのことや、と、思ったら、例の千円札のことやって、

ポケットとか
千円でも 出てきたら
嬉しい気分 味わって
欲しかったよ
(原文)

らしく、ああ、もう敵わんなあ。と思い、
お母さんが買ってくれたパジャマを着て、ネクター飲みながら中島みゆきと山口百恵を聴く夜。


うちの中におるお母さんはやっぱり化粧をしてなくて、髪の毛もボサボサで寝巻きのままで、笑ってる。